2022年6月7日
国際環境NGO 350.org Japan
日本の金融機関、化石燃料企業へ巨額の資金提供を継続:
化石燃料への融資・引受は再エネの19倍
日本の金融機関による化石燃料及び原子力関連企業への投融資調査結果
6月7日、国際環境NGO 350.org Japan(350 Japan)は、日本の金融機関による化石燃料及び原子力関連企業への投融資に関する調査結果を発表しました。これは、日本の金融機関190社が化石燃料及び原子力に関連する企業へどの程度の投融資を行っているか、金融情報データベースや企業の公表情報等を基にして調査し、分析したものです※1。
350 Japanの過去の同様の調査では、再生可能エネルギーへの投融資の資金規模は調査の対象外でした。今回の調査で初めて日本の主な金融機関が近年、どの程度、化石燃料、原子力、再生可能エネルギーの関連企業への投融資を行ってきたのかが明らかになりました。
その結果、未だに日本の金融機関は巨額の資金を化石燃料企業に投じ続けている一方、再エネ関連企業※2への支援は伸び悩んでいることがわかりました。パリ協定以降、ESG投資や脱炭素の重要性が強調されてきましたが、実態は不十分なままであると言えます。上記のデータによれば調査対象の金融機関190社のうち、60社については、化石燃料及び原子力関連企業への投融資の事実が確認されませんでした。
調査結果の主なポイントは次の通りです。
①日本の金融機関は、パリ協定採択後、再エネへの資金の19倍もの資金を化石燃料に提供してきた
2016年から2021年6月の約5年間に、本調査の対象となった日本の主な金融機関による融資・引受総額は、化石燃料関連企業に2,856億ドル(32兆8,325億円)、原子力関連企業に146億ドル(1兆6,790億円)、再生可能エネルギー関連企業に147億ドル(1兆6,905億円)でした※3。
調査対象の金融機関は、パリ協定採択後の約5年間、再生可能エネルギー関連企業向けの融資・引受総額の19倍もの規模の資金を化石燃料関連企業に投じていたことになります※4。
グラフ1:日本の金融機関による各エネルギーへの融資・引受額
東京電力福島第一原子力発電所事故により甚大な被害をもたらした原子力については、その依存度を低下させるとの政府方針があるにもかかわらず、今もなお資金が流れていることが判明しました。他方、主力電源化が謳われている再生可能エネルギーについては原子力と同程度の資金規模にとどまっています。世界的に再生可能エネルギー100%への公正な移行(ジャスト・トランジション)が目指されている中、日本の金融の実態が国際社会のトレンドからかけ離れていることを示しています。
350 Japan代表の横山隆美は次のようにコメントしています。
「気候変動が深刻化し、世界各地で異常な気候災害が頻発する中、日本の主だった金融機関が、パリ協定の成立以降も、再生可能エネルギーと比べて19倍もの金額を化石燃料に資金提供したという事実は極めてショッキングなものです。日本の金融機関は、気候科学に向き合い、これまでの延長線上にない、脱炭素社会に向けた抜本的な転換が求められます」
②石炭への融資・引受額は若干の減少傾向が表れているが石油・ガスは大きく拡大、再エネは横ばい
他方、2016年から2020年の経年変化をみると、石炭への資金の流れはわずかに減少傾向にあります(グラフ2参照)。しかし、それよりもはるかに大きく石油・ガスへの資金の流れが拡大しています。他方、再生可能エネルギーへの融資・引受額は、同期間にほぼ横ばいです。アントニオ・グテーレス国連事務総長は「再生可能エネルギーへの移行速度を3倍にしなければならない」と呼びかけていますが、日本の金融機関はこれまでのところ、再生可能エネルギー転換のための明確な前進を示すことに失敗してきたと言えます。
グラフ2:日本の金融機関による各エネルギーへの融資・引受額の推移
日本は、化石燃料の供給を海外からの輸入に依存しています。そのような中で化石燃料関連ビジネスに巨額の資金を投じ続けることは、ロシアのウクライナ侵攻などの国際的な影響に対して日本が脆弱であり続けることを意味します。最新の気候科学に照らせば、既存の化石燃料インフラが寿命まで稼働した場合だけでも、50%の確率で1.5℃に気温上昇を抑える累積CO2総排出量を超えるとされています※5。したがって、新規の化石燃料インフラへの投資の余地はなく、既存のものも速やかな段階的廃止が求められています。
よって、今後は、石炭からの脱却をさらに加速させるとともに、石油・ガスに対する資金の流れも抑制する必要があります。それを省エネルギーや再生可能エネルギーの普及に振り向けることこそ、気候危機の解決に繋がり、中長期的に見て、エネルギー安全保障にも貢献することになるでしょう。
③3メガバンクは、化石燃料と原子力関連企業の最大の資金源
得られたデータより、調査対象の日本の主な金融機関が、2016年から2021年6月までの約5年間に、石炭、石油及びガス、原子力にどの程度の融資・引受を行ったかを分析しました。その結果、いずれのエネルギー区分においても、みずほフィナンシャルグループ(みずほFG)、三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)、三井住友フィナンシャルグループ(SMBCグループ)が上位を独占していることがわかりました(グラフ参照)。このことは、3メガバンクの気候変動及び原子力リスクへの影響力と責任の大きさを示しているといえます。
グラフ3:金融機関による石炭への融資・引受総額とその割合(単位:10億ドル)
グラフ4:金融機関による石油&ガスへの融資・引受総額とその割合(単位:10億ドル)
グラフ5:金融機関による原子力への融資・引受総額とその割合(単位:10億ドル)
350 Japanシニア・キャンペーナーの渡辺瑛莉は次のようにコメントしています。
「今回の調査は、気候危機を招く化石燃料ビジネスや持続可能ではない原子力ビジネスにおいては3メガバンクの影響と責任が極めて大きいことを明らかにしました。パリ協定の成立後、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)によって1.5℃特別報告書や第6次評価報告書、国際エネルギー機関(IEA)による1.5℃へのロードマップなどが発表され、石炭だけでなく石油やガスについても脱却が求められている中、その進展がほとんど見られないことは大きな懸念です。ウクライナ危機は化石燃料に依存することの脆弱性を改めて浮き彫りにしました。今後顕在化することが予測される気候リスクを軽減し、エネルギー自給率の向上に寄与するためにも、金融機関が果たせる役割は大きく、3メガバンクが掲げる「排出実質ゼロ」に向けた具体策の進展が急務です」
④化石燃料関連企業の債券・株式の保有額は、再生可能エネルギー関連企業の債券・株式保有額の16倍
本調査の対象となった日本の主な金融機関・投資会社による債券・株式保有額は、2021年8月時点において、化石燃料関連企業に289億ドル(3兆3,235億円)、原子力関連企業に14億ドル(1,610億円)、再生可能エネルギー関連企業に19億ドル(2,133億円)でした。
調査対象の金融機関は、パリ協定の採択から約5年が経過した2021年においても、再生可能エネルギー関連企業の債券・株式保有額の16倍もの規模の資金で化石燃料関連企業を支援していました。
グラフ6:日本の金融機関による各エネルギーへの債券・株式保有額
石炭、石油・ガス、原子力、再生可能エネルギー関連企業の債券・株式保有額が最も大きい日本の投資会社12社は次の表の通りです。石油・ガスについてはオリックス株式会社、石炭については日本生命、原子力についてはみずほフィナンシャルグループ、再生可能エネルギーについてはオリックス株式会社が最も大きな保有額でした。12社には大手の金融関連会社、メガバンク、生命保険会社が名を連ねています。このうち、再生可能エネルギーの債券・株式保有額が化石燃料(石炭、石油・ガス)の債券・株式保有額を上回る例は一つもありませんでした。
したがって、融資・引受のみならず、投資(債券・株式保有)についても日本の企業は再生可能エネルギーよりもはるかに化石燃料を支援している傾向があると言えます。
表1:日本の投資会社の各エネルギー関連企業の債券・株式保有額
⑤公開情報に基づく化石燃料・原子力への投融資が確認されなかった金融機関
調査対象のうち、次の表2に示す金融機関は、金融情報データベースや企業の公表情報等を基にした本調査では、化石燃料及び原子力関連企業への投融資が確認されませんでした。350 Japanは、気候変動や原子力リスクに加担している可能性が比較的低いと想定されるこれらの金融機関をリスト化しました。
表2:公開情報に基づく化石燃料・原子力への投融資が確認されなかった金融機関
⑥アンケート調査の結果〜化石燃料及び原子力に投融資していない金融機関の存在を確認〜
表2には、化石燃料及び原子力関連企業への投融資を行ってはいるものの、金融データベースや公開関連文書に記録されなかった銀行も含まれている可能性があります。このため、350 Japanでは、この表の金融機関に対して化石燃料及び原子力への投融資実績を尋ねるアンケート調査を2021年に実施しました※6。回答は、表3の通りです。
表3:化石燃料及び原子力への投融資に関するアンケート調査の結果
350 Japan代表の横山隆美は次のようにコメントしています。
「今回のアンケート調査では、北陸労働金庫及び匿名希望の1金融機関が『化石燃料及び原子力関連企業への投融資はこれまでもしなかったし今後する予定もない』と回答しています。これらの2金融機関は、日本国内において最も気候変動や原子力リスクの問題の少ない金融機関だと言えるでしょう。また、近畿労働金庫のように、気候変動を課題の一つと位置づけた上で、気候変動などの社会課題に取り組むNGO・NPOへの支援を継続している金融機関が日本にもあることは希望です。他方、アンケート調査を実施した60行のうち、大多数の金融機関が回答しなかったことは残念です」
350 Japanのフィールド・オーガナイザーの沼田茂は次のようにコメントしています。
「気候危機の影響や原子力リスクを懸念し、これらを支援するような消費行動や金融取引を避けようとする人々や企業は急速に増えています。そのような中で発表された今回の調査は、化石燃料及び原子力ビジネスが確認されなかった銀行も見られました。市民、企業、大学、自治体など、銀行に口座を持つあらゆる主体にとって、このリストは、銀行を選ぶ際の一つの参考になります。そしてそのような選択が広がることは、メガバンクを始めとする金融機関の大きな方向転換への後押しになるでしょう」
追記参考:350 Japanでは、地球温暖化の原因となる『化石燃料』や、持続可能でない『原発』に投融資が確認されなかった金融機関を「COOL BANK」とし、そのリストを特設サイト「COOL BANK クールバンク」にて紹介しています。
<参考情報>調査の背景:脱化石燃料と金融のトレンド
2015年に合意された気候変動に関するパリ協定は、気温上昇を1.5〜2℃以下に抑制すること(1.5℃に抑えることで壊滅的な気候影響を減らせる)、世界の温室効果ガス排出量を実質ゼロにすることと並び、「資金の流れを低排出にする」との目標が明記されました。金融の脱炭素化が重要課題との認識が広がり、化石燃料のダイベストメント(投資撤退)を宣言した金融機関・機関投資家の数は1,500に急増し、その資産総額は40兆ドルにも達しています(350.org調べ)。化石燃料からの脱却は、大気汚染と健康被害の抑制、クリーンな雇用機会の創出、国内の富の国外への流出の防止、エネルギー自立と民主主義という複合的な観点からも支持されています。
350 Japanでは、日本の金融機関の化石燃料への投融資の実態調査、メガバンクとの対話や株主提案、市民のダイベストメント・キャンペーンなどを通じて日本の金融の脱炭素化を後押ししてきました。その結果、国内外の大きなトレンドとも相まって、日本の金融機関に脱石炭方針を掲げるところや、ネットゼロ宣言を行うところが増え始めました。しかし、依然として科学が示す1.5℃目標への道筋には不十分なままです。
注)
※1 本調査は、350 Japanがオランダの調査会社であるProfundo社に委託して行ったものです。本調査の具体的な方法論は、こちらの資料をご覧ください(日本語暫定訳・原文English)。
なお、350 Japanは、2018年にも同様の調査を行い、調査報告書「民間金融機関の化石燃料及び原発関連企業への投融資状況」にまとめ、公表しています。
※2 対象企業の一覧は、こちらの方法論より確認いただけます(日本語暫定訳・原文English)。
※3 本プレスリリースにある金額の数字はすべて概数です。「ドル」はすべて米ドルを表します。文中の日本円は「1米ドル=115円」のレートで換算した参考値です(2021年12月16日時点)。
※4 方法論にある通り、本調査では、世界の石炭生産量の75%を占める「脱石炭リスト (GCEL) 」の掲載企業、ならびに世界の石油・ガス生産量の75%を占める石油・ガス企業、大手石油サービス会社、パイプライン企業、及び再生可能エネルギー設備製造に従事する企業(風力タービン、太陽光パネル等)への投融資を調査しました。世界的に最も重要な再エネ企業を対象に分析対象に含め、再生可能エネルギー市場の75%をカバーできるよう努めました。このため、本調査の分析対象とならなかった比較的小規模な再エネ企業への融資・引受額は本調査結果の数値に含まれていません。しかし、石炭や石油・ガスについても同様に、比較的小規模な企業への融資・引受額は本調査結果の数値に含まれていません。このため、本プレスリリースにて述べた石炭や石油・ガスと再生可能エネルギーへの融資・引受額の比較は、一定の傾向を示していると言えます。
※5 参考:IPCC第6次評価報告書 第3作業部会 気候変動の緩和
※6 60行に対して実施したアンケートの質問票はこちらです。
本件に関する問い合わせ先:
国際環境NGO 350.org Japan https://world.350.org/ja/
担当者:伊与田昌慶 E-mail: japan[@]350.org