2022年3月22日

【プレスリリース】仏シンクタンクNGOが発表: 日本の大手金融機関の気候変動方針は「不合格」 ポートフォリオ・ネットゼロ宣言にもかかわらず、依然として石油・ガスを支援

プレスリリース

2022年3月22日
国際環境NGO 350.org Japan
「環境・持続社会」研究センター(JACSES)
レインフォレスト・アクション・ネットワーク(RAN)
国際環境NGO FoE Japan
メコン・ウォッチ

 

仏シンクタンクNGOが発表:
日本の大手金融機関の気候変動方針は「不合格」
ポートフォリオ・ネットゼロ宣言にもかかわらず、依然として石油・ガスを支援

 

3月22日、フランスのシンクタンクNGOのリクレイム・ファイナンス(Reclaim Finance)は、350 JapanなどのNGOと共同1で「石油・ガス金融方針成績評価(Oil and Gas Policy Tracker:OGPT)2」を公表しました。この成績表は、日本の大手金融機関を含む世界の150社の石油・ガス関連事業および関連企業への投融資方針を調査し、気候変動の観点から評価したものです。日本で調査対象となった10金融機関及び機関投資家は、すべて、石油・ガスからの脱却に関する明確な方針を持っていないために「ゼロ点」と評価されました。

国連気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の科学的知見は、気候変動に関するパリ協定がめざす1.5℃目標の達成には、世界のCO2排出量を2030年までに2010年比で半減させ、2050年までにネットゼロ(実質ゼロ)にする必要があることを示しています。そのためには、先進国は2030年までの脱石炭に加え、石油・ガスの段階的廃止が必要です。2020年、リクレイム・ファイナンスは「石炭金融方針成績評価(Coal Policy Tool)※3」を発表し、日本の金融機関の脱石炭方針が不十分であり海外の先進事例と比べ大きく遅れを取っていることを示していました。

今回の新しい成績評価は、石炭だけでなく石油・ガスからの脱却をも急ぐべきであるにもかかわらず、世界の金融界の取り組みが立ち遅れていることを示すものです。とりわけ日本の3メガバンクは、石油・ガスからの脱却について何ら方針を持たないまま、ネットゼロをめざす金融機関の有志連合であるGFANZ4やNZBA5に参加しています。この成績評価では、このような金融機関は「グリーンウォッシュ(実態を伴わないまま見せかけの環境保全をアピールすること)」に該当するとも批判されています。

 

この成績評価の主なポイントは次の通りです。

  • この成績評価では、世界の150の大手金融機関及び機関投資家(60銀行、30保険会社、60機関投資家)を対象に、(1) 石油及びガスの新規事業及び拡張への投融資をやめる方針、(2) そうした事業を計画する企業への投融資をやめる方針、(3) 石油・ガスからの段階的撤退(フェーズアウト)に関する方針を調査しました。その結果、多くの銀行や保険会社、機関投資家は、気候変動に対処すると言いながら、1.5℃目標に整合しない不十分な方針しか持っていないことが明らかになりました。
  • 日本からは、3メガバンクである三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFGグループ)、三井住友フィナンシャルグループ(SMBCグループ)、みずほフィナンシャルグループ(みずほFG)や、保険会社、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)など、10の金融機関及び機関投資家が調査対象となりました。いずれも、上述3つの方針が確認できなかったため、30点満点6で「ゼロ点」という成績評価になりました。日本の金融機関及び機関投資家は、既存の脱石炭方針の例外規定を見直して「抜け穴」をなくすとともに、「脱ガス・脱石油」の方針を早急に策定する必要があります。

 

表:石油・ガス金融方針成績評価における日本の金融機関・機関投資家(抜粋)

組織名称 種別 成績評価
三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG) 銀行 0点
三井住友フィナンシャルグループ(SMBCグループ) 銀行 0点
みずほフィナンシャルグループ(みずほFG) 銀行 0点
三井住友トラスト・ホールディングス 銀行 0点
MS&ADホールディングス 保険 0点
SOMPOホールディングス 保険 0点
東京海上ホールディングス 保険 0点
年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF) アセットオーナー 0点※7
地方公務員共済組合 アセットオーナー 0点8

出典:「石油・ガス金融方針成績評価」より350 Japan作成

 

  • 他方、脱石炭に加えて、脱石油・脱ガス方針を掲げる先駆的な例もあります。例えば、フランスの郵便系銀行である「ラ・バンク・ポスタル(La Banque Postale)」は、従来より「2030年までに石炭ダイベスト」との方針がありましたが、2021年10月には「2030年までにすべてのガス・石油会社からダイベストする」と発表しており、この成績評価で30点満点中「28点」と評価されています。
  • 国際エネルギー機関(IEA)の1.5℃シナリオ※9では、新規石油・ガス田の開発が除外されており、1.5℃目標の達成のためには石油・ガス生産を拡大させてはならないことが示されています。それにもかかわらず、すべての上流部門(探査・開発・生産)の石油・ガス事業への支援をやめる方針を持っているのは、9金融機関しかありません。
  • 66の金融機関・機関投資家は、オイルサンド、北極圏、シェールオイル・ガス、超深海など、技術的にも費用的にも実用化が比較的難しく環境負荷もより大きい非在来型の化石燃料セクターへの支援を制限する方針を有するのみです。既存の技術で採掘が容易で経済的にも利用しやすい在来型の化石燃料も含めて支援を制限するセクター方針を持つ金融機関は14社に留まっています。
  • 多くの金融機関・機関投資家の方針は、プロジェクト単位での直接的支援を制限するのみで、新規石油・ガス事業において主要な役割を果たしている企業単位の支援を可能にしたままです。5金融機関のみが石油・ガス事業の拡張計画を持つ企業への支援を(全てまたは部分的に)除外しています。
  • 石油・ガスへの支援を制限する方針を掲げる金融機関・投資家の中で、その方針に例外を設け、抜け穴を容認するケースが増えています。「信頼できる移行計画」あるいは「2050年までの1.5℃目標と整合した計画」を持つ企業を例外扱いし、化石燃料支援の継続を許しています。それらの「計画」は、石油・ガスの拡張を野放しにし、気温上昇1.5℃を一時的に超える危険なオーバーシュートにつながる、不十分なものです。

リクレイム・ファイナンスのディレクターのLucie Pinsonは次のようにコメントしています。

「石油・ガス金融方針成績評価(OGPT)によって、金融業界におけるグリーンウォッシュをチェックすることができます。ネット・ゼロ宣言にもかかわらず、GFANZメンバーの多くは、石油・ガスの方針を持っていないことが確認されました。フランスのラ・バンク・ポスタルという素晴らしい例外はありますが、何らかの方針を持っていたとしても、引き続き、石油・ガスの新しい開発計画を支援できてしまうのです。これらの金融機関は、気候変動に対処するという誓約をしているにもかかわらず、1.5℃に整合するポートフォリオをめざすための最も基本的な試験に不合格であると言えます。プーチンのウクライナ戦争で明らかになったように、石油やガスに支援を続ければ、将来的にそれが紛争の資金源として利用され、世界をより不安定にさせることになりかねません。」

350 Japanのシニア・キャンペーナーの渡辺瑛莉は次のようにコメントしています。

「COP26のグラスゴー気候合意が示したように、すでに脱石炭は既定路線です。それに加え、IEAのネットゼロシナリオなどが示すように、最新の科学的知見を踏まえれば、気候危機を悪化させないために、新規の石油・ガス田の開発を停止し、既存事業からも撤退を計画する時期に来ています。今回の成績評価は、日本の金融機関及び機関投資家が石油・ガスから脱却する方針を何ら持たず、気候危機を深刻化させる化石燃料にその巨額の資金を投入し続けることを許していることを示しました。

日本の金融機関は、石油・ガスへの支援を制限する方針がないだけでなく、脱石炭方針に深刻な抜け穴が残されていることでも知られています。日本の金融機関と機関投資家が気候変動対策において世界から出遅れ、かつグリーンウォッシュであるとして批判されていることは、まさに評判リスクであり、世界第3位の経済国として気候リスクの増大に拍車をかけているとの批判を免れません。ただちに脱石炭方針を見直して強化するとともに、脱石油・脱ガスの方針を検討し、策定する必要があります。」

以上

 

脚注:

  1.  「石油・ガス金融方針成績評価(Oil and Gas Policy Tracker:OGPT)」のパートナー団体は、ウルゲワルド(Urgewald)、レインフォレスト・アクション・ネットワーク(RAN)、バンクトラック(Bank Track)、350 Japanなどです。パートナー団体の一覧はこの成績評価のウェブサイトで閲覧可能です。
  2. 「石油・ガス金融方針成績評価」のウェブサイトはこちら https://oilgaspolicytracker.org/
  3. Coal Policy Toolについては「国際環境NGOが世界の金融機関の石炭方針に関する新分析ツール『Coal Policy Tool』を発表」を参照のこと。
    「Coal Policy Tool」ウェブサイト(英語)はこちら https://coalpolicytool.org/ 
  4. ネットゼロをめざすグラスゴー金融アライアンス(Glasgow Finacial Alliance for Net Zero: GFANZ)https://www.gfanzero.com/
  5. ネットゼロ銀行アライアンス(NET-ZERO BANKING ALLIANCE: NZBA)https://www.unepfi.org/net-zero-banking/
  6. アセットオーナーとアセットマネージャーについては事業(Projects)単位のものは評価対象外のため、20点満点での評価となる。
  7. 年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)は、石油・ガスの事業(Projects)については成績評価の対象外のため、20点満点中の0点である。
  8. 地方公務員共済組合は、石油・ガスの事業(Projects)については成績評価の対象外のため、20点満点中の0点である。
  9. 国際エネルギー機関(IEA)”Net Zero by 2050 – A Roadmap for the Global Energy Sector” https://www.iea.org/reports/net-zero-by-2050

 

 


本件に関する問い合わせ先:

国際環境NGO 350.org Japan、伊与田昌慶、[email protected]