2020年9月8日

【共同プレスリリース】国際環境NGOが世界の金融機関の石炭方針に関する新分析ツール「Coal Policy Tool」を発表

共同プレスリリース

2020年9月8日

国際環境NGO 350.org Japan
「環境・持続社会」研究センター(JACSES)
気候ネットワーク
Reclaim Finance

 

国際環境NGOが世界の金融機関の石炭方針に関する新分析ツール「Coal Policy Tool」を発表

 

[パリ 9月8日9時(日本時間17時)] ー Reclaim Financeは、国内外の27のNGO[1]とのパートナーシップの下、世界の金融機関が掲げる石炭セクターへの金融サービスの制限・停止方針を特定、評価、比較する初のオンラインツール「Coal Policy Tool」を発表した[2]。同ツールは、5つの主要な基準に基づき、一貫性及び透明性のある採点方法を用い、214の金融機関の石炭セクター方針を格付けした。また、石炭方針を未だ掲げていない世界の大手銀行、保険・再保険会社、アセットオーナー、アセットマネージャーも明らかにした[3]。リアルタイムで更新される同ツールは30か国を網羅し、ユーザーが金融機関の石炭方針の先進事例や課題などを容易に比較、特定するのに役立つ。調査結果は、coalpolicytool.orgからアクセス可能である。

 

2015年のパリ協定の採択以来、金融機関による石炭方針の数は急速に増加している。本ツールは、世界的な平均気温上昇を産業革命以前に比べて1.5度に抑えるというパリ協定の目標に対して、既存の方針の質を評価する最も包括的なデータベースである。本ツールが明らかにした主な調査結果は以下の通り: 

  • 最も水準の高い石炭方針を採用しているのはヨーロッパの金融機関であり、石炭方針を掲げる金融機関の数が最も多く、方針を定期的に改定し、より高い水準を採用している。
  • 世界の金融市場を支配している米国のアセットマネージャーは、最低水準のスコアとなっている。ブラックロックは、米国で石炭方針を持つ唯一のアセットマネージャーである。しかし、ブラックロックの2020年1月の発表は、同社の方針が本ツールにおいて、評価基準の1つを除いてすべて0点と評価されたように、ほとんどが中身の伴わないものであった。
  • 最近石炭セクターからの撤退方針を掲げたフランスの銀行を除いて、多くの銀行は保険・再保険会社に遅れをとっている。比較的多くの保険・再保険会社が企業に対する厳しい石炭除外基準を採用している。

しかし、石炭方針の水準は依然として大きな課題がある。本ツールの分析によると、AXA、CréditAgricole / Amundi、CréditMutuel、UniCredit等のトッププレーヤーを含む16の金融機関のみが、堅固な石炭のフェーズアウト方針を採用している[4]。世界中のほとんどの石炭方針は、石炭セクターの成長を抑制することすらままならず、不十分な水準に留まっている。 

Reclaim Financeの創設者及び事務局長であるLucie Pinsonは、「本ツールは、石炭方針を特定・比較し、顧客、メディア、金融機関、その他ステークホルダーが石炭政策の複雑なジャングルを簡単にナビゲートできるようにするだけではない。何よりも、高水準の石炭方針が、気候の危機を防ぐために効果的に貢献することを目指している」と述べている。

Pinsonはまた、次のように付け加えている。「金融機関は単に石炭方針を採用するだけでは不十分であり、必要なのは優れた石炭方針である。フランスの金融機関は石炭方針を採用した最初のグローバルプレイヤーだったが、これらの方針は、十分な水準に達するまで何度も修正されてきた。私たちには行動を先送りする余裕はない。石油とガスへの取り組みはますます緊急になっている。金融機関は今、私たちのツールによって特定された最高水準の方針のレベルに早急に到達する必要がある。」  

 


 

石炭方針を強化するものは何か。

気候科学と完全に整合するためには、石炭方針は(a)石炭採掘、輸送インフラ、電力までのバリューチェーン全体をカバーすること、(b)企業融資、プロジェクト融資、引受、パッシブ運用を含む全ての金融サービスに取り組むこと、(c)ダイベストメントと株主によるエンゲージメントを組み合わせて、石炭セクターの拡大を阻止するだけでなく、早急なフェーズアウトを支援することが必要である。

  • 新規の石炭事業を阻止することは、地球温暖化をパリ協定で定められた1.5度に抑えるための最も緊急の課題である。金融機関は、事業向けだけでなく、石炭拡張計画を持つ全ての企業向けの金融サービスの提供を直ちに停止しなければならない。
  • 既存の全ての石炭関連資産は他社に売却されるのではなく、段階的に閉鎖される必要がある。金融機関は遅くとも、欧州及びOECD諸国では2030年までに、その他の国では2040年までに石炭へのエクスポージャーをゼロにすることを約束しなければならない。これらの目標を達成するには、石炭セクターへの関与が非常に高い企業(ビジネス活動の大部分を石炭に依存している、あるいは石炭関連ビジネスの規模が著しく大きい企業[5])を直ちに除外するだけでなく、それらの企業に対して石炭からのフェーズアウト計画を要求する強固なエンゲージメント戦略が必要である。  

350.org日本支部キャンペーナーの渡辺瑛莉は、「日本の3メガバンクは近年、石炭方針を改定し、新規の石炭火力発電所向けの(投)融資を行わない方針を掲げているが、適用範囲が非常に狭く、先進的な欧州の銀行に遅れを取っていることは本ツールを見れば明らかである。邦銀の方針は新規石炭火力発電事業向けの(投)融資に限定されており、石炭セクターへのエクスポージャーの高い企業への金融サービスへの規制が全くない。またパリ協定の1.5度目標と整合的な時間軸での石炭関連産業からのフェーズアウト戦略も持ち合わせておらず、これらの点で評価がゼロに留まっている」とコメントしている。

 


 

銀行と保険会社の多くは未だに新規石炭事業を支援

216の大手金融機関[3]は未だに石炭方針を全く持っておらず、銀行や保険会社の多くは、新規石炭事業への直接融資や保険引受を実施している。英国の保険市場であるLloyd’s、米国の保険会社であるLiberty Mutual、中国の銀行であるICBC、そして、ポーランドの保険会社であるPZUがこれに該当し、新規石炭事業を除外していない。他の多くの金融機関は、最悪の事業の一部のみを除外している。米国、南アフリカ、並びにアジアの金融機関が該当しつつも、すべての地域の金融機関に懸念がある。

「環境・持続社会」研究センター(JACSES)のプログラム・ディレクターである田辺有輝は、「アジアの金融機関の石炭方針は非常に遅れをとっており、特に日本の主要保険会社である東京海上、MS&AD、SOMPOは、全く方針を持っておらず、世界で最も低いスコアとなっている。COVID-19の危機は、彼らが気候科学者や政治指導者の呼びかけをこれ以上無視できず、新規石炭事業への直接的及び間接的な支援を直ちに停止しなければならないことを示している。石炭の拡張を許容しない方針を掲げることは、環境保護と持続可能性を約束する金融機関にとって不可欠な最初のステップにすぎない」と述べている。

 


 

石炭セクターの悪影響を緩和するには既存の政策では不十分

本ツールで分析した50の銀行と保険会社は、依然として石炭ビジネスに関与する企業を金融サービスから除外せず、プロジェクト・ファイナンスのみを除外の対象としている。また、石炭への関与が高い企業の除外基準のほとんどは、彼らのビジネス活動における石炭関連ビジネスの相対的な割合のみに基づいている。ドイツの環境NGOのウルゲバルト(Urgewald)が管理するデータベースであるGlobal Coal Exit Listが明らかにしているように、このアプローチは、一部の大手石炭採掘企業あるいは石炭火力発電開発企業を取りこぼしてしまっている

Fossil Free Californiaの事務局長であるVanessa Warheitは、「米国のアセットマネージャーは、石炭と気候に対して偏りのある不十分なアプローチを行う傾向がある。カリフォルニアの年金基金であるCalPERSやCalSTRSであろうと、世界最大手のアセットマネージャーであるブラックロックであろうと、石炭産業の採掘側のみに対応し、その他全ての石炭関連事業を除外する方針となってしまっている。これらの方針は本ツールに基づけば、当然不合格判定であり、彼らが石炭セクターの半分以上を無視し続ける限り、脱石炭に向けた障害であり続けるだろう」と述べている。

 


 

ほとんどの金融機関は脱石炭への必要性に対処できていない

最後に、本ツールは、気候科学と整合した石炭関連資産の閉鎖を後押しする金融機関による取り組みが全く遅れていることを示している。わずかな金融機関のみが、(a)ヨーロッパとOECD諸国で遅くとも2030年までに、その他の国で2040年までに石炭セクターへのエクスポージャーをゼロにすることを約束し始め、(b)その目標を達成するための戦略を採用し始めた。フランスの多くの金融グループは現在、2021年末までに既存のクライアントに石炭のフェーズアウト計画を採用することを要求しており、適時に適切な方法で脱石炭を実現することを証明できないクライアントとは取引を停止することを約束している。

 

 


【注記】
[1] 本ツールの協力団体:
350; BankTrack; Both Ends; Centre for Financial Accountability; CEED – Center for Energy, Ecology, and Development; CLEAN; Ecologistas en Acción ; Fossil Free California; Foundation “Development YES – Open-Pit Mines NO”; Friends of the Earth US; Global Witness; Instituto Internacional de Derecho y Medio Ambiente; Jacses; Just Share; Kiko Network ; Les Amis de la Terre France; Maan ystävät – Friends of the Earth Finland; Rainforest Action Network; Re:Common; RESET; ShareAction; Solutions For Our Climate; Sierra Club; Urgewald. 
また、NGOのキャンペーンであるEurope Beyond CoalおよびInsure Our Future and BlackRock’s Big Problemも賛同している。
[2] Coal Policy Toolはhttps://coalpolicytool.org/から閲覧可能。
[3] 本ツールの対象金融機関について: 
  • グローバルランキング上位20の銀行、アセットオーナー、アセットマネージャー(銀行はS&P、アセットオーナーとアセットマネージャーはWillis Towers Watson plcを参照)、保険会社はInsure Our Futureの2019年のスコアカードを参考にし、その金融機関の石炭方針の有無について調査した。
  • 上記のランキング上位100位の全ての金融機関は、Reclaim Financeが石炭方針を調査できるよう体系的に評価された。
  • Reclaim Financeの調査や世界中のパートナーとの協力によって、体系的な評価を行わずに石炭方針を確認できた、最低100億米ドルを超える資産を有する比較的小規模の金融機関も調査対象に含む。
  • その他、パートナー団体のリクエストにより調査対象として追加した金融機関も含む。
方法論について詳しくはこちらを参照。https://coalpolicytool.org/methodology-coal-policy-tool/
本ツールは214の金融機関の方針を格付けした。 214という数は、保険会社については保険引受に関する方針と投資方針の両方について格付けされているため、その重複を除外して算出された。 
216の大手金融機関は石炭方針を掲げていないことが明らかになった。216という数は、上記のグローバルランキング上位100の金融機関(銀行はS&P、アセットオーナー及びアセットマネージャーはWillis Towers Watson plc、保険会社はInsure Our Futureの2019年のスコアカードに基づく)より、重複を除外した数。留意すべき点として、石炭方針を掲げていない大手の金融機関のみが本ツールの対象となっている。 
[4]堅固な石炭方針を掲げているトッププレーヤーは、AXA、Crédit Agricole/Amundi、CréditMutuel、UniCredit、並びにその他6つのフランスの金融グループ:AG2R La Mondiale、CNP Assurances、La Banque Postale Asset Management、MACIF、OFI Asset Management及び投資家としてのSCOR(再保険会社としてのSCORは、事業向けにのみ制限を持つ限定的な石炭方針を掲げている)。
[5] Reclaim Financeとそのパートナー団体は以下の方針を金融機関に求めている。収益の20%以上または発電量の20%以上を石炭に依存している全ての企業、年間1,000万トン以上の石炭を生産している企業、または5GW以上の石炭火力発電容量を有する企業を取引から除外すること。詳細については、こちらを参照(英文):https://coalpolicytool.org/our-demands-on-coal/
Reclaim Financeについて Reclaim Financeは、2020年に設立されたフランスを拠点とするNGO。活動ビジョンは、生態系を保護し、人々の基本的なニーズを満たす持続可能な社会への移行を支援する金融システムの実現。気候の緊急事態と生物多様性の損失という状況において、Reclaim Financeの優先事項の1つは、資金フローの脱炭素化を加速させること。Reclaim Financeは、特定の金融機関によって引き起こされる悪影響に対して声をあげ、その金融機関に働きかけると共に、政治的意思決定者に既存の法律と慣行の変更を求めることにより、改革を推進する。

 

日本語版プレスリリースの問い合わせ先

「環境・持続社会」研究センター(JACSES)、田辺有輝 [email protected]

国際環境NGO 350.org Japan、渡辺瑛莉 [email protected]

気候ネットワーク、平田仁子 [email protected]

 

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