アメリカ先住民による歴史上最大の抗議運動
「ダコタ・アクセス・パイプライン(DAPL)」は、ノースダコタ州からイリノイ州にかけて4つの州を横断する、全長約1900kmの巨大な石油パイプライン事業のことです。
スタンディングロック・スー族の居留地に隣接するミズーリ川の底を通過するパイプラインは、彼らの唯一の水源を汚染する恐れがあること、また条約で守られた神聖な土地を破壊するとして、抗議者達に激しく反対されています。
当初このパイプラインは首都ビスマーク付近を通過する予定であったにもかかわらず、地域住民の飲み水を汚染する懸念があったことなどから、貧困率が40%以上を占めるスタンディングロック付近を通る現ルートへ部族の同意なく変更となりました。
「水の保護者」と名乗る大勢の抗議者達は、建設現場近くにあるキャンプサイトでティーピーやテントを張って共に生活を営み、昨年4月の工事開始以来、極寒の季節にも耐えながら長期間に渡って平和的な反対運動を続けてきました。現地には全米中から500以上の部族、国内外から一般市民や環境活動家、ミュージシャン、退役軍人など数千人の応援者達が集まり、抗議運動はハッシュタグ「#NoDAPL」と共に世界中にそのムーヴメントを広げました。
しかし一方で、警察の暴力による制圧は激化していき、催涙ガスやゴム弾、高圧放水砲などを使った攻撃で、これまで老人や子供を含む数百人の人々が負傷し、逮捕されてきました。なかには失明や片腕を切断する危機に迫られるほどの、極めて深刻な外傷を負った人もいます。
それでも決して屈することなく人々が建設反対を訴え続けた結果、オバマ前政権の判断で12月に工事は一時中断となったものの、トランプ氏が今年1月に署名した大統領令によって建設は再開されました。
すでに完成してしまったパイプラインにオイルが流れ始めた現在も、スー族は何があっても諦めずに法廷で戦い続けるという声明を発表しています。
「ダコタ・アクセス・パイプライン」は、事業主「エナジー・トランスファー・パートナーズ」を代表とする4つのグループ企業による総工費約38億ドルのプロジェクトで、世界の大手金融機関17行が巨額の投融資を行っています。そのうち、総額費用の約半分もの金額を出資しているのが、日本の大手金融機関です。
すでに世界中では多くのサポーター達が銀行口座を解約してスタンディングロックへの支援を表明しているほか、日本を含む各国での署名提出、関連銀行前での抗議イベントなどが行われています。今年3月にはオランダに本社を置く「INGグループ」が、「ダコタ・アクセス・パイプライン」関連の保有資産の売却に合意しました。これは直接融資している銀行として初めてのことで、アメリカ先住民への尊重と理解に基づいて行われた「ダイベストメント」は、彼らにとって大きな意味を持つ出来事となりました。
続いて、フランスの金融大手「BNPパリバ」、ノルウェーの金融大手「ストアブランド」と同国保険会社最大手であり資産運用会社大手の「KLP」がダイベストメントを発表し、今世界中にその動きは広がりつつあります。
スタンディングロックは、アメリカ政府と先住民の歴史的背景だけではなく、環境汚染、人権侵害、化石燃料への依存など、私たちが抱える様々な問題を映し出しています 環境にやさしい銀行に口座を切り替えるという私たちの「選択」が、スタンディングロックへの支援となるのです。
「チレボン石炭火力発電事業」は主に日本政府および民間企業・金融機関の投融資によって、進められているインドネシア・西ジャワ州チレボン県の石炭火力発電事業です。チレボン1号機は2012年に商業運転が開始されました。1号機の建設・操業に伴う地域住民の生計手段の喪失や健康被害などが訴えられているにも関わらず、2号機の建設計画が進められています。
チレボン石炭火力発電事業付近の地域住民の主な生計手段は、小規模漁業、貝類の採取・販売または養殖、テラシ(発酵小エビのペースト)作り、 塩づくり、農作物の栽培など多岐にわたり、幾つかの収入源を組み合わせながら生活を送っていた家族も多かったのですが、これらの生活の糧は1号機の建設により甚大な影響を受け、多くの地域住民が事業前より厳しい生活を強いられています。
石炭火力発電事業によって住民らは健康被害も被っています。発電所による大気汚染が原因で呼吸器病が住民の間で増加しています。同火力発電所の増設計画は子供たちの健康を危険にさらす恐れが大いにあります。
石炭火力発電所1号機と埠頭が建設されたアスタナジャプラ郡カンチ・クロン村の沿岸地域は、さまざまな種の貝類や小エビ類、魚類のとれる非常に生産性の高い場所でしたが、多くの小規模漁業者、貝類栽培者、貝類採取者らが、漁獲量の減少や漁場・貝採取場の減少による影響を受けています。さらに1号機の事業地近くの塩田の生産性も、同事業後に塩田の黒ずみ、塩の製品の品質低下などの影響によって大きな損失を被り、塩田の雇われ労働者の多くも解雇されてしまいました。
このように数々の打撃を受けている地域住民は日本政府や関連する企業や金融機関に対して石炭火力への投資撤退を求めるため、多岐にわたる抗議活動を繰り広げ、そして無数の異議申立書を提出してきました。
しかし、彼らの訴えは日本側に全く聞き入れられていない状態が続いています。
2016年12月には、地元住民らが第2号機建設計画において「不当に環境許認可が発行された」と、西ジャワ州政府に対する行政訴訟を起こしました。その結果、2017年4月にインドネシア地裁が同事業の環境許認可の取消の判決を出しました。しかし、日本国際協力銀行(JBIC)、並びにみずほ銀行、三菱東京UFJ銀行、そして 三井住友銀行は、同訴訟の進捗を把握しておきながら、地裁判決の1日前に融資契約を締結しました。これは、住民の権利や現地国の司法判断を軽視したものと見られます。
「チレボン石炭火力発電事業」の拡張計画は、事業主「チレボン・エナジー・プラサラナ社(CEPR)」(丸紅(35%)、Indika Energy(25%)、 Samtan(20%)、Komipo(10%)、 JERA(10%)が設立した現地法人)によって運営されている総工費約 20 億米ドルのプロジェクトで、日本の官民協調という形で投融資が進められています。そのうち、総額費用の約20%の融資を検討しているのが、日本の3大銀行です。
融資を検討していた民間銀行グループの一員であった、フランスのクレディ・グリコル銀行は自身の石炭融資を削減する公約を理由にチレボン石炭火力発電事業からの撤退を発表しています。
健全な環境で過ごす住民の権利や生活の糧と生存に必要な自然資源へのアクセスといった住民の権利を蔑ろにしているエネルギー事業への支援は持続可能な開発協力などには該当しません。
私たちのお金がこのような有害なプロジェクトに流れていることを知って、地球にやさしい銀行に口座を切り替えるという「選択」は私たちにあります。