世界の至るところで山火事が発生し、最高気温が40度を越える異常気象も観測されている。ここ日本も、西日本災害が未だ落ち着かない状況にあり、異常気象の増加の原因とされている気候変動に早急な対応が求められている。
持続可能な開発目標である「SDGs」の世界ランキングでも、ゴール13(気候変動に具体的な対策を)が足を引っ張り、日本は昨年の11位から15位にランクを落とした。
こういった現状を打破すべく、国家政府に頼らずして、地域・自治体・企業・市民で進める地球温暖化を止めるための「野心的な取り組み」を世界に発信する「グローバル気候行動サミット(Global Climate Action Summit – 以下GCAS)」が、今年9月12日〜14日にカリフォルニア州知事主催で開催される。
GCASに先立ち、日本でも始まった地球温暖化・気候変動に対するさまざまなセクターのアクションを紹介し、セクター間のパートナーシップを探るための特別シンポジウムが都内で開催された。第一部では、気候変動対策に取り組む各セクターのゲストたちがプレゼンテーションを行った。
気候変動アクションも、非政府アクターたちが主役の時代に
まずは、自然エネルギー財団 気候変動グループ マネージャー西田 裕子氏による「脱炭素化をめざす世界の最前線に日本から参加」についてのプレゼンテーション。数々のCOP(締約国会議)に参加してきた西田氏は、今世界では非政府アクターに期待が高まっていると話す。アメリカはパリ協定から脱退したが、非政府アクターである3058団体がコミットを表明した。
アメリカの団体は「私たちはまだパリ協定に残っている」という声明を出した
こういった世界の動きから、日本でも7月に気候変動イニシアチブが発足。自然エネルギー財団・WWF・CDPジャパンが取りまとめ、2018年7月31日現在で合計154団体が参加する。
「日本の発信力の弱まりから、イニシアチブが発足しました。今後350.orgさんをはじめとしたさまざまなセクターと連携して、積極的にムーブメントをつくっていきます。皆さんもぜひご参加ください」と西田氏。
10月には、イニシアチブが主導する日本気候変動サミットが企画されている。ここでは、イニシアチブのメンバーによるトークセッションや日本全国にある気候変動への取り組みを紹介する予定だ。
ダイベストメント促進の鍵は、動きやすい銀行と投資家
続いては、一般社団法人環境金融研究機構代表理事 藤井 良広氏による「脱炭素社会の実現に向けた金融機関の役割」についてのプレゼンテーション。
欧米では自治体によるダイベストメントが始まっており、特にヨーロッパでは財務省が推進していると藤井氏。日本でダイベストメントが進まないのは、政府が明確な指針を持っていないことが最大の要因だと指摘する。
さらに日本の金融機関においては、ビジネスリスクとなる認識をあまり持っていないことが要因だと藤井氏。
「罰金や罰則などの規制が一番だが、法律以外にもルールメイキングはある。私は、ISOのグリーンファイナンス専門委員をやっていますが、グリーンボンドかどうかの選別や、やらないと後ろ指さされるという暗黙のルールをつくるといった方法もあります」
また、銀行の横並びの構図も崩れつつあることから、座礁資産への融資が少ない、動きやすい銀行が狙い目だと藤井氏。昨今ではノルウェーの年金基金がダイベストメントリストに日本企業を上げていることから、そういった投資家への働きかけに力を入れることも有効だと説明した。
ローカルから始める地球に優しいエネルギーとお金の流れ
続いては、まちだ自然エネルギー協議会 入澤 滋氏による「地域発の地球にやさしいエネルギーとお金の流れ」についてのプレゼンテーションが行われた。
入澤氏は3.11の大震災をきっかけに『巨大すぎて誰も責任が取れないシステムから、コンパクトなお互い様の関係へ』をコンセプトに町田市民電力を立ち上げた。
ドイツなどのエネルギー先進国は協同組合を設立し、そこで資金を調達するが、日本はそういった制度が存在しない。そこで、資金調達は「市民のみんなの思い基金」を設置し、44名の縁故者に対し一口10万円をメーリングリストで募集。約300万円を調達した。それを利息1%、3回に分けて15年で返還する。
また、原発反対を掲げ、地域エネルギーにも投融資する城南信用金庫の口座を開設。お金の流れも意識する。
最近では新たに株式会社も設立し、市民電力初の生活クラブとの連携もスタート。入澤氏は「2040年までに町田市を自然エネルギー100%のまちにすることを目指し活動中です。自然エネルギー100%を町田から日本、そして世界へ発信していきたい」と意気込みを語った。
クライメイト・ジャスティスは先進国の問題
続いては、ユニリーバ・ジャパン・ホールディングス株式会社 溝越 えりか氏による「ベン&ジェリーズが応援する気候変動対策とは」についてのプレゼンテーション。
ユニリーバ傘下のベン&ジェリーズは、世界初フェアトレード認証を取得。合成着色料や香料、保存料を使わない安心の食材を使用。
また、ユニリーバ全体で、気候変動問題にも関わるパームオイルを使用しない方針をとっているほか、再生可能エネルギー100%利用宣言「RE100」にも参加。日本全国の小規模発電所でバッテリーを充電し、店頭で使用することで消費者に向けて再生可能エネルギーの啓蒙も行う。
オーストラリアでは、350.orgとともに「石炭ではなくアイスを掘ろう」というキャンペーンを実施。4つの都市を巡って5,000個のアイスを配った。
「環境団体と違って、私たちは消費者と近い存在。アイスクリームという商材を使って、楽しいけどいろいろ考えらさせられるというキャンペーンをやっています」と話す。今後は、ファンを増やし、アイスクリームを通して社会を変えていくことにチャレンジしていくと語った。
クールなバンクでクールな地球に
350.org Japan代表の古野 真氏は「市民社会が導くダイベストメントの最前線:日本もRISEする」をテーマに、ダイベストメント(※)の説明と世界の事例、新しいキャンペーンの紹介を行った。(ダイベストメントについてはこちら)現在は6万人、900団体がダイベストメントを宣言し、総額約690兆円が動いている。
最新のダイベストメント発表には、国の政府系ファンドを完全に化石燃料から引き揚げると決定したアイルランド以外に、今年目立った発表にはニューヨーク市がある。年明けにNY市の約20兆円規模の年金基金を5年以内に化石燃料から引き揚げると発表し、さらにNY市が気候変動対策のため大手石油会社5社を提訴すると宣言した。これは政府が自ら導いた決断ではなく、もっとも気候変動への影響に脆弱な住民による活発な運動があったからこそ置きたものであり、他の大都市のダイベストメント発表も同様に、市民主導の働きかけが成果を出している。このような成功例の元に、日本でもダイベストメントを繰り広げる活動を継続する。
350.org Japanが開催している「COOL BANK AWARD:クールなバンクでクールな地球」では、化石燃料や原発関連企業との取引がないと明確に宣言した「クールバンク」への乗り換えを促進するため、そういった銀行を応援するアクションを9月中旬に行われるGCASに向けて日本全国で行う予定だ。
このキャンペーンは、地元銀行を底上げし地域内の経済循環を促進するものとして、地方創生にも貢献する。さまざまなアクターとの連携からまちぐるみでの参加を目指す。詳しくは、公式ホームページ(COOL BANK AWARD)から。
第二部は、ゲスト登壇者によるパネルディスカッションが行われた。ファシリテーターには、350.org JAPAN ダイベストメントコミュニケーターであり、SDGsライターである松尾沙織氏。ここでは、自治体との連携に議論が及んだ。
西田氏は「非国家セクターとして自治体は重要な存在。市民のみなさんにも働きかけを行っていただいて、自治体が動きやすい状況をづくりを」と話す。金融機関と自治体の取り組みに関しては「まちの温暖化対策を立案し明確に打ち出し、それを実現するために市民に協力してもらうことが必要」と藤井氏。
入澤氏は「自治体によって性格ややっていることが異なるため、自治体ごとの戦略が必要。自分たちは環境マスタープランをもとに、一緒に学んでいくことから始めます」と、近々始まる自治体との取り組みを紹介した。
「ダイベストメントはさまざまなセクターが参加できる取り組み。企業も自治体も取り組めば より大きなムーブメントになるだろう。多くの個人や団体が「クールなバンク」を求めることになれば、環境に配慮した投融資を行う金融機関の信用やブランド価値向上にもつながると期待している。私たちの取り組みは、預け先の銀行を選ぶ際に地球にやさしい選択肢を提示するものでもあります。明らかに情報が足りていないなかで、人々が選択できる状況をつくっていくのが今回のキャンペーン。そういった機会を提供できるものでもあるので、金融機関さんにも市民のみなさんにもぜひCOOL BANK AWARDに参加して欲しい」と古野氏は最後締めくくった。
まだ資本主義が主流の現代では、すべての経済活動はお金によって成り立っている。私たちの世界が持続可能なものになるかどうかは、このお金の流れによって決まると言っても過言ではない。
ESG投資のように、すべてのセクターがお金の流れを健全にしていくことが、持続可能な社会の実現には欠かせないことなのではないだろうか。この流れをつくるべく、全セクターの連携や協力が今求められている。