(執筆者 ビル・マッキベン、執筆先NEW REPUBLIC)

calculatethemath人類の未来は数学に依存しています。木曜日に発表された新しい研究内の“数値”は、今までで最も不吉なものでした。

その“数値”とは、単純な計算で、地球温暖化に地球をこれ以上蝕まれたくなかったら、世界の既存炭鉱や原油採掘用の井戸内に眠る化石燃料を、あとどれだけ燃やすことができるのか、詳しく説明しています。 言い換えれば、私たちの目標が、地球の温度上昇を2℃以下(世界の国々が合意した上限)に抑えるためには、あとどのくらい新たに掘削できるのでしょうか?

答えは、ゼロ。

そうです。今回発表された新しい研究によると、この壊滅的な温暖化を防止しようと真剣に考えるなら、今後一切、新しい炭鉱を掘ったり、新しい土地に油田用の穴を開けたり、さらにパイプラインを構築したりすることは許されないのです。 そう、ただの1つも。 既に私たち人間は、化石燃料の辺境地まで拡大し終えており、 今後私たちができる唯一の選択は、既に採掘済みの化石燃料由来のエネルギーを、迅速的に管理して減らすことです。

新しい数値は驚異的です。 わずか4年前に、「地球温暖化に関する非常に恐ろしい新たな数値(Global Warming’s Terrifying New Math)」」と題するエッセイを書き、 その中で、私はロンドンに拠点を置くシンクタンク、Carbon Tracker Initiativeの研究を引用しました。 その研究では、世界の化石燃料業界が特定する石炭、石油、ガスの未開発埋蔵量は、地球の温度上昇を2℃未満に抑えたい場合に私たちが燃やせる炭素量の、5倍にも及ぶことが明らかになりました。 つまり、エネルギー企業が所有権を主張する化石燃料を全て掘り尽くし、燃やしてしまった場合、地球が5倍加熱されてしまうということです。 この計算により、さまざまな大学や教会、財団が、化石燃料関連株からの大規模な投資撤退を始めました。 そしてそれ以来、投資撤退が社会通念となっています。 現在、中央銀行総裁や世界の指導者の多くが、化石燃料の埋蔵量の大部分を地中に残しておく必要があることに同意しています。

しかし、新しい数値はさらに強烈です。 これは、ワシントンに拠点を置くシンクタンク、Oil Change International(OCI)のレポートを引用で、ノルウェーのエネルギーコンサルタント、Rystadのデータを使用したものです。 この場合にかかる費用は$54,000です。Rystadは、この世界の既存化石燃料源の数字を、その金額で売っています。 顧客のほとんどは石油会社、投資銀行、政府機関ですが、 そんな中、OCIは全く別の理由でこの数字を入手したいと考えました。それは、 私たちの地球が、どれほど壊滅的な状況に迫ってしまっているのかを把握するためです。

科学者たちは、世界中で気温上昇を2℃未満に抑えておける確率はわずか3分の2で、そのために私たちが大気中に放出できるCO2は、800ギガトンである、と述べています。 しかしRystadのデータは、現在世界中で稼働中の炭鉱、原油採掘用の井戸内、ガス井戸には、942ギガトンに値するCO2が含まれていることを示しています。 つまり、これはどういうことか。これは単純な算数の問題で、次のようになります。

942 800

「私たちが発見したのは、現在稼働中の現場や鉱山にある炭素をすべて燃やした場合、すでに2℃を上回ってしまうということです」。OCIのエグゼクティブディレクター、スティーブン・クレッツマン氏は述べています。 これは、もし私たちがあと数十年間もこのような食生活を続けたら病的肥満になるだろう、ということではありません。 そうではなく、もしすでに冷蔵庫の中にある物を食べたら、私たちは病的肥満になるだろう、ということなのです。

さらに悪いことに、「病的」の定義が過去4年間で変わってきています。 2℃はかつて越えてはならない一線でしたが、 科学者たちは現在、上限ははるかに低いと考えています。 私たちはすでに、世界の温度を1℃上昇させました。これにより、北極のほぼ半分の氷を溶かし、世界のサンゴの巨大な帯状を全滅させ、致死的な洪水や干ばつを引き起こしたのです。 今年の7月と8月は、これまでに地球で記録された最も暑い月と並びましたが、科学者たちは、ほぼ確実に、人類文明史上最も暑かったと考えています。 まるで、聖書に出てくる“エデンの庭”だと学者が考えていたイラクのバスラのような場所では、今年華氏129度を記録し、人間が屋外で生き残ることができない段階に近づいています。 そのため昨年、世界のリーダーたちがパリで会合を開いた際に、新たな数字を設定し、 地球の気温上昇を1.5℃未満に抑えるために、あらゆる取り組みを行うと述べました。 実は、その目標を達成できるかは50%の確率なのですが、そのために私たちが放出できるCO2は、あと353ギガトンしか残されていません。 では、もう一度計算してみましょう。

942 353

はるかに大きな数字です。 パリで厳粛に設定した1.5℃という目標を、達成できるかがわずか5分5分という中で、私たちは全炭鉱、また現在稼働中の油井場やガス井戸の一部を、枯渇してしまう前に余裕を持って閉鎖する必要があります。

「神話のような炭素を吸うユニコーンが現れるか、信じられないほどの飛躍的進歩でもない限り、私たちに社会は化石燃料産業の拡大の限度に達しています。」と、クレッツマン氏は述べています。 「パリ協定に従って行動するということは、化石燃料業界内を管理して衰退させる取り組みを、できるだけ迅速に始めなければなりません。」

「管理された衰退」とは、全てを明日すぐに停止させなければならない、という意味ではありません。もちろん、既存の油田やガス井戸、炭鉱から燃料を抽出し続けることができます。 ですが、新たな開発を求めて“探索しに行く”ことは、もうできません。 既に発見されているものだけ。つまり、現在のプロジェクトのすぐ次のものすら開発できないのです。

米国だけでも、既存の鉱山や油田、ガス田には、860億トンの炭素排出量が含まれています。これは、地球の気温を1.5℃上昇させる量の、実に25%にも値します。 しかし、米国のエネルギー業界の思うがままに、現在計画されている油田と水圧破砕場をすべて開発してしまうと、さらに510億トンの炭素排出量が追加されてしまします。 もしそれを許せば、米国は単独で世界の炭素予算のほぼ40%を吹き飛ばしてしまいます。

今回発表されたこれらの新しい“数値”は、影響力が強い多くの団体・企業にとって間違いなく悪いニュースです。 化石燃料業界の全体的なビジネスモデルは、毎年汲み上げる油とガスを際限なく「補充」できるという考えに基づいています。そのため、地質学者からなる彼らのチームは、掘削するための新しい場所を常に探しているのです。 9月、Apache Corporationは、30億バレルの石油が埋蔵されるテキサス州西部の油田を特定したと発表しました。 もし、その石油を採掘せず地中に残しておくと(新しい数値は、パリで設定された目標を達成したいなら、必ず守る必要があると示しています)、当業界は数十億ドルを負担することになるでしょう。

パイプラインを建設し、井戸を掘削する労働者らが加入する組合も、変更しようとする試みに抵抗しているのは理解できます。 ここで、ダコタアクセス石油パイプラインに対する現在のドラマを考えてみましょう。 9月に、パイプライン警備員が唐辛子スプレーで武装し、番犬が、ブルドーザーから墓地を非暴力的に守っていたネイティブアメリカンを攻撃した後でさえも、AFL-CIO会長のリチャード・トランカ氏は、工事を続行させるようにオバマ政権に要求しました。 「パイプラインの建設と維持管理は、数万人の熟練労働者に質の高い仕事を提供しているのです。」と、トランカ氏は述べ、 それに同意した建設労働組合の委員長は、次のように述べました。 「組合員の人々は、家族の社会保障や年金が保証され、賃金が高いこれらの優れた、家族支援のある中流階級の仕事に頼っています。」 また別の労働組合の関係者は、最も雄弁に次のように語りました。 「阻止したり、過剰に規制したり、「止めてくれ。地中に残しておいてくれ!」なんて、簡単に言うのは止めてください。そんな単純な話ではないのです。」

彼女は間違ってはいません。確かに、仮にそんな単純な話だったら、誰もがもっと楽になれるでしょう。 組合員たちは、中流階級の生活を送るために、まさにこれらの仕事に頼っています。そして、私たちは皆、とんでもないものを一日中、それも毎日毎日燃やし続けているのです。 でも、この問題の核は、実際にとても単純なのです。 私たちは「阻止」しなければなりません。 「化石燃料をそのまま地中に残して」おかなければならないのです。 数字は数字です。 地球を守りたいのなら、今やっていることをそのまま続けることはできないのです。

「化石燃料をそのまま地中に残しておく」とは、即座に化石燃料の生産をすべて停止する、という意味ではありません。 「現在稼働中の現場が自然に衰退し始めると、2033年までに、石油の使用量は50%減るでしょう。」と、クレッツマン氏は述べます。 つまり、あと17年で、掘削済みの油井がゆっくりと枯渇し、その石油はすべて再生可能エネルギーに置き換わります。 それは恐らく、石油を大量消費する車を電気自動車と置き換えるのに十分な時間です。 また、その間にパイプライン労働者と炭鉱労働者を再教育し、ソーラーパネルと風力タービンを構築していきます。 新たな化石燃料インフラを禁止しているポートランドや、新しい炭鉱を禁止している中国のような国々に従います。 これらは小さなステップですが、どれも重要なものです。

大きな組合の一部でさえ、再生可能エネルギーへ切り替えると、2030年までに高賃金の仕事が百万件生まれるだろうと認識し始めています。 看護師から運輸労働者は皆、ダコタ・パイプラインに反対しており、また、他の労働組合も石炭輸出と水圧破砕に反対の意を表明しています。 「これは事実上、前例がありません」と、ベテラン労働者で気候運動の主催者であるショーン・スウィーニー氏は、こう述べています。また 「「気候組合主義」の台頭は、労働運動に対する新たな方向性を提示しています」とも。 この動きが広がった場合、民主党の政治家たちに地球温暖化に対して画策する余地をさらに与えるでしょう。

しかし、世界のリーダーたちを説得して数値に従わせたり、新しい鉱山や油田、パイプラインの建設を止めさせるには、ニューヨークでキーストンパイプラインや水圧破砕を阻止したり、北極の掘削を阻止したような運動が必要です。 また、公共の土地で化石燃料のための新たな採掘や掘削を終わらせる、「化石燃料はそのまま地中に法案」を通過させる必要があります。 これは、「非現実的である」とか「考えが甘い」と、エクソンモービルから内務長官まで誰もが言っています。 しかし、新しい数値が明らかになるにつれて、化石燃料を地中に残しておくことこそ、唯一現実的な方法だと納得できます。 非現実的なのは、気候変動を前にして突きつけられた容赦ない“数値”を、何らかの形で逃れることができると想像することです。 OCIのレポートが伝えるように、「最も強力な気候政策手段の1つは、とても単純なことです。それは、掘削を止めることです」。 つまり結局、「ドツボにはまっているのが分かったら、それ以上掘るのは止めるべきだ」ということですが、私たちは今かつてないほど最大の穴にはまっています。

これは文字通り数学の試験であり、曲線で点数が付けられるものではありません。 正解はただ1つです。 もし回答を間違え、行動をとらなければ…私たちは皆、10000年にも及ぶ人類文明の実験とともに、失敗するでしょう。