2021年2月25日

【共同プレスリリース】日本の金融機関が石炭産業への融資総額で世界第1位に

 

共同プレスリリース
2021年2月25日

国際環境NGO 350.org Japan
気候ネットワーク
レインフォレスト・アクション・ネットワーク(RAN)
「環境・持続社会」研究センター(JACSES)
国際環境NGOグリーンピース・ジャパン
国際環境NGO FoE Japan
メコン・ウォッチ

 

 

日本の金融機関が石炭産業への融資総額で世界第1位に
3メガバンクが2回連続でトップを独占

〜「脱石炭リスト」投融資調査で判明〜

 

 

本日、石炭産業に投融資する世界の金融機関・投資家に関する最新の調査結果[LINK]が、ドイツの環境NGOウルゲワルド(Urgewald)、フランスのシンクタンクNGOリクレイム・ファイナンス、国際環境NGO 350 Japanおよび25団体により発表されました。同調査はウルゲワルドが主宰する「脱石炭リスト(Global Coal Exit List)」(注1)に基づいて、毎年発表されているものです(注2)。過去数年間の調査対象は石炭火力発電の開発企業約200社への資金フローのみとなっていましたが、今回は初めて、同リストに掲載されている全935企業に対する資金フロー(融資、引受、債券および株式保有)を調査対象として範囲を広げており、「金融機関および機関投資家による石炭産業全体へのエクスポージャーを分析する初めての試み」(ウルゲワルド金融調査リーダーのKatrin Ganswindt)となります。(詳細は調査方法を参照)

 

主なポイントは以下の通りです。

  • 石炭産業への融資総額のトップは日本の金融機関、引受総額のトップは中国の金融機関
  • 民間銀行などの石炭産業への支援はパリ協定以降も増加
  • 石炭産業への投資では、上位を米国の機関投資家が独占

日本を含め、脱炭素宣言を掲げる国が次々と台頭してきている中、世界の金融機関も独自の脱炭素に向けた事業計画や方針を発表していますが、石炭産業に対する投融資を続けていることでその努力を相殺していることを今回の調査結果は物語っています。

 

日本の3メガバンク・グループが石炭産業への融資世界トップ3

本調査は2018年10月(注3)〜2020年10月末にかけて、381の民間銀行などによる計3,153億米ドル(約33兆1,109億円(注4))に上る石炭産業への融資を明らかにしました。このうち、トップ3は前回の調査に続き2回連続で日本の金融機関によって占められており、第1位はみずほフィナンシャルグループ(みずほFG、約222億米ドル:約2兆3,355億円)、第2位は三井住友フィナンシャルグループ(SMBCグループ、約212億米ドル:約2兆2,282億円)、第3位は三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG、約179億米ドル:約1兆8,825億円)となっています。第4位は米シティグループ(約135億米ドル)、第5位は英バークレイズ(約134億米ドル)でした(詳細は添付資料「Top 30 Lenders」を参照)。

MUFGは2019年、SMBCグループとみずほFGは2020年、「原則、新規石炭火力発電所向けの融資を行わない」との方針を掲げましたが、「支援表明済み案件」として、2020年12月、ベトナムのブンアン2石炭火力発電事業への協調融資を決定したとみられ、国際的な批判を浴びてきました(注5)。本調査の対象期間には、同案件が含まれていないため、2020年の実績はより多額になる可能性があります。

その上で、2016年から2019年までの融資額の変化を見ると、MUFGが減少傾向にあるものの、SMBCグループが増加傾向を示しています(下図)。一方で引受額は3行とも増加傾向を示しています

Global Coal Exit List Finance Researchを基に350 Japanが作成

 

国別に見ると、過去2年間に日本の金融機関は計約757億米ドル(約7兆9,544億円)の融資を石炭産業に投じており、世界第1位となっています。第2位は米国(約676億米ドル)、第3位は英国(約218億米ドル)であり、これら3カ国で「脱石炭リスト」掲載企業に対する融資の52%を占めていました。 

国際環境NGO 350.org Japanの渡辺瑛莉は、「日本の金融機関の石炭ポリシーは世界で最も低水準だと言われています。3メガバンクグループの石炭ポリシーは投融資の一部にしか適用されず、国内や東南アジアなどの国々で石炭火力発電所を新設する企業向けの融資や引受業務が続けられてしまいます。3メガバンクは包括的な脱石炭ポリシーを掲げることで、気候危機を加速することをやめるべきです」と述べました。

 

引受のトップは中国の金融機関だが、日本もトップ15にランクイン

過去2年間で、427の民間銀行などが脱石炭リスト掲載企業に計8,083億米ドルに上る株式・債券の引受業務を行いました。引受の世界トップ10までを中国工商銀行(ICBC)、CITIC、上海浦東発展銀行、中国銀行(バンク・オブ・チャイナ)などの中国の金融機関が占め、シティ、JPモルガン・チェース、MUFG、みずほFGが続きました(詳細は添付資料「Top 30 Underwriters」を参照)。

中国の銀行は融資額では全体の6%に過ぎませんでしたが、引受額では全体の58%(約4,673億米ドル)を占めました。続いて、米国の銀行が約1,041億米ドル、日本の銀行が約588億米ドル(約6兆1,816億円)、インドの銀行が約359億米ドル、英国の銀行が約351億米ドルで、これら5カ国で全体の87%を占めました。特徴としては、中国とインドの銀行は国内の石炭産業に対する債券と株式の引受を行なったのに対し、米国、日本、英国の銀行は世界の石炭産業に対して引受を行いました。

 

民間銀行などの石炭産業への支援はパリ協定以降も増加

本調査はまた、パリ協定の締結以降、2016年から一貫して世界の民間銀行などが世界の石炭産業への支援を増加させていたことを明らかにしました。融資額は2017年を境に減少に転じているものの、債券・株式の引受額はパリ協定以降、一貫して増加し、融資・引受の総額も毎年増加しました。

 

2016年以降の民間銀行による石炭産業への融資・引受総額灰色:融資額 赤:引受額 *予測額

 

2016年の融資・引受総額は約4,910億米ドルでしたが、2019年には約11%増加の約5,430億米ドルでした。本調査は2020年10月末までを対象としていますが、2020年1月〜10月末までの総額はコロナ禍にもかかわらず、すでに約4,560億米ドルに達しており、前年の同時期の総額よりも約30億米ドルの増加を示しているため、2019年と同水準になると見通されています。

世界の民間銀行の石炭政策の評価ツール(Coal Policy Tool)を運用しているフランスのシンクタンクNGO、リクレイム・フィナンスの政策アナリストのYann Louvelは、「こうした金額は銀行の気候対策・コミットメントに関する冷静な実態評価を示しています。88の民間銀行が石炭政策を採用していますが、その中で堅固な政策を採用しているのは4行だけです。大部分の金融機関は非常に多くの抜け穴を作り、政策の効果がほとんど意味を為さないほどです」と述べました。

 

石炭産業への最大の機関投資家は米国が独占

本調査では、2021年1月時点で、4,488の機関投資家による約1.03兆米ドルに上る石炭火力発電のバリューチェーンを担う企業への投資を明らかにしました。本調査で対象としている機関投資家は、年金基金、投資信託会社、アセット・マネージャー、保険会社、ヘッジファンド、民間銀行、政府系ファンドやその他の機関投資家です。

世界の石炭産業への最大の機関投資家は米国の投資信託会社のバンガード(約858億米ドル)で、第2位のブラックロック(約843億米ドル)と合わせて全体の17%を占めました。また、米国の機関投資家全体では約6,024億米ドルを石炭産業に投資し、全体の58%をも占めています。

また、日本の機関投資家は約810億米ドル(約8兆5,059億円)を石炭産業に投じ、国別では米国に続いて第2位となっています。日本の年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)だけで、脱石炭リストの掲載企業の債券および株式保有は約290億米ドル(約3兆536億円)に上っています。その他には、三井住友信託が12位(約106億米ドル:約1兆1,132億円)、野村證券が18位(約83億米ドル:約8,776億円)、MUFGが19位(約82億米ドル:約8,665億円)でした。

 

脱石炭のために求められる早期の投融資撤退

石炭時代の終焉には、石炭への投融資の早期撤退が求められています。しかし残された時間は残りわずかです。「曖昧な2050年実質ゼロ宣言によって、金融機関が今すぐ求められる決定的な行動を実行に移す意思がないことが覆い隠されています。石炭への投融資の大部分は2030年よりも前に停止されなければなりません」と米環境NGOレインフォレスト・アクション・ネットワーク(RAN)の気候・エネルギープログラムディレクターのパトリック・マカリーは述べました。

「米国、日本、中国、英国などの鍵となる国々の金融機関が脱石炭を早期に実現しなければ、私たちは、パリ協定の目標を達成することができない未来へと追いやられてしまうでしょう」とKatrin Ganswindtは述べました。

「必要なのは、金融機関による包括的で即時性のある脱石炭ポリシーです。仏アクサ、仏クレディ・ミュチュエル(Crédit Mutuel)、伊ウニクレディト(UniCredit)などは脱石炭リスト掲載企業の大部分をポートフォリオから除外することにより、先例を示しました。石炭への投融資から早期に撤退することは可能であり、望ましいだけでなく、生存に関わる問題なのです」とYann Louvelは述べました。

 

融資、引受、投資のトップ30の金融機関のリストは添付資料からご覧いただけます。

詳細は、www.coalexit.org/finance-dataをご覧ください。

 


(注1)「脱石炭リスト2020」および掲載されている日本企業についてはこちら<https://www.kikonet.org/info/press-release/2020-11-12/urgewald_GCEL2020>をご参照。

(注2)例年、国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP)の期間中に発表されているが、昨年のCOP26の延期に伴い、2020年の発表が延期され今回の発表となった。

(注3)調査方法」に記載されている通り、本調査の元となっているデータセットは2016年以降のデータを含んでいるが、本リリースで主に記載されているのは特別な記載がない限り、IPCC1.5度特別報告書が発行された2018年10月以降を対象としている。

(注4)1ドル=105円換算

(注5)https://world.350.org/ja/press-release/200125/


<本リリースに関するお問い合わせ>
国際環境NGO 350.org Japan 渡辺瑛莉 Email: [email protected] 

<グローバル・リリースに関するお問い合わせ>
Jacey Bingler, Urgewald, +49-175-5217571, [email protected]
Angus Satow, Reclaim Finance, +44-7847754046, [email protected] 


<添付資料>
PDFスプレッドシート

<調査方法(和訳)>
ドキュメント

<全資料一覧>
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