2022年8月26日

【声明】岸田首相の原子力推進方針に抗議します: 省エネルギーと再エネ100%への公正な移行を戦略とすべき

声明

2022年8月26日

国際環境NGO 350.org Japan

 

岸田首相の原子力推進方針に抗議します:
省エネルギーと再エネ100%への公正な移行を戦略とすべき

 

8月24日、岸田文雄首相が、原子力発電の追加的な再稼働や運転期間の60年間への延長を進めるとともに「次世代の原子炉の開発や建設を検討する」と表明したと報じられました。これまで、政府は原子力発電への依存度を低減させるとの原則のもと、その新増設は想定していないとしていました。この岸田首相の方針は、脱炭素化及び持続可能性の観点から受け容れられるものではなく、厳重に抗議します。

今回の原子力拡大方針の理由として、気候変動対策があげられています。しかし、温室効果ガス削減に必要なのは石炭火力発電などの化石エネルギーからの脱却であり、原子力を拡大させることは本質的な解決策ではありません。パリ協定の1.5℃目標を達成するためには2030年までに石炭火力発電をゼロにする必要があるとされていますが、今もなお国内で石炭火力発電の新増設が進み、2030年以降も石炭火力発電を続ける見通しである日本には、「石炭中毒」として国際的な批判が集まっています。日本政府はこれに何ら実効性ある対策を打たず、アンモニア・水素混焼という不確実かつ高コストな施策を推進し、容量市場などの制度を以て化石電源を支援すらしています。
2014年度、日本の原発の利用率はゼロでしたが、原発が稼働していた前の年と比べて温室効果ガス排出量は減少しました。それは省エネルギーと再生可能エネルギーの拡大等が進んだからだと環境省は分析しています。原発がなくともCO2削減が可能であることは日本においてもすでに実証されているのです。

再生可能エネルギーと比べてもコストが高く、技術的に実現可能性が不確かで、地元住民の合意を得られる見通しがたっておらず、原子力規制委員会のルールも未だなく、事故リスクの懸念も大きく、核廃棄物の処理責任を次世代に押し付ける次世代原子力の開発・建設に政策資源を投じるのは誤った判断です。ロシアによるウクライナ侵攻でチョルノービリとザポロジエの両原発が深刻な危機にさらされたことから明らかなように、原発が孕む安全保障のリスクも見過ごせません。

さらに、近年では原子力は計画開始から運転開始まで約20年間もの歳月を要することもあります。目下の電力需給バランスの改善にも間に合いませんし、最新の気候科学が必要と指摘する2030年までの大幅なCO2削減にも間に合いません。緊急にとるべき省エネルギーと再生可能エネルギーの対策強化の必要性から人々の関心を逸らし、対策を先送りすることは、気候危機の解決を遅らせます。加えて、より競争力を高める必要がある省エネ・再エネ産業の中長期的な成長を阻害するものであり、経済戦略としても誤っていると言わざるをえません。

何より、東京電力福島第一原発事故の原因は未だ究明の途上にあり、被害者への救済も十分ではありません。2011年以降、世論調査では一貫して脱原発に賛成する声が多数を占めています。そのような中、今年7月の参議院選挙の自民党公約にもなかった原子力発電の建設が、選挙の後、民主的プロセスを一切欠いたまま打ち出されました。このことは、岸田首相の「聞く力」が、原発事故の被害当事者や原発の後始末を強いられる次世代、原発事故や気候危機のリスクを抱えることになる市民ではなく、利害を持つ原子力業界関係者にのみに対して発揮されているという疑いを持たざるを得ません。

岸田首相はただちに原子力拡大方針を撤回すべきです。また、パリ協定の1.5℃目標を確実に達成するため、省エネルギーの徹底により、持続可能な再生可能エネルギー100%への公正な移行を日本のエネルギー政策の中核に据えるよう、エネルギー政策の見直しこそ進めるべきです。

国際環境NGO 350.org Japanの横山隆美代表は次のようにコメントしています。
「気候危機解決のためには、2030年までに世界の温室効果ガスの排出をほぼ半減させる必要があります。そのためには、化石燃料に依存する発電から、安全で持続可能な再生可能エネルギー100%への転換が求められます。様々な未解決の問題を孕む原子力や、実証できていないアンモニア・水素混焼ではなく、再生可能エネルギーにこそ公的支援をすべきです。」

 


本件に関する問い合わせ先:

国際環境NGO 350.org Japan https://world.350.org/ja/

担当者:伊与田昌慶 E-mail: japan[@]350.org