2022年6月23日

【共同声明】住民・市民運動の勝利!日本政府がマタバリ2及びインドラマユ石炭火力の支援中止を発表~アンモニア混焼やガス火力への転換も回避すべき~

共同声明

2022年6月23日

「環境・持続社会」研究センター(JACSES)
気候ネットワーク
国際環境NGO FoE Japan
国際環境NGO 350.org Japan
メコン・ウォッチ

 

住民・市民運動の勝利!

日本政府がマタバリ2及びインドラマユ石炭火力の支援中止を発表

~アンモニア混焼やガス火力への転換も回避すべき~

 

6月22日、バングラデシュのマタバリ2及びインドネシアのインドラマユ石炭火力発電事業に対する政府開発援助(ODA)支援の中止を外務省が発表したと報じられました。両事業は、気候危機を深刻化させるだけでなく、地域住民の生計手段に甚大な影響を及ぼし、両国における電力供給過剰も悪化させるため、国内外から強い批判の声があげられ、再三に渡って支援中止が求められてきました。

今回、遅い判断であったものの、ようやく日本政府が両事業への支援中止を決定したことは、弾圧や人権侵害を受ける可能性がある厳しい状況の中でも事業に対する懸念の声をあげ続けてきた地域住民の一つの勝利であり、気候正義や人権保護を一貫して日本政府に求めてきた国内外の市民社会の成果です。

しかしながら、バングラデシュでは、すでに国際協力機構(JICA)が支援中のマタバリ1石炭火力発電事業の工事により、塩田やエビの養殖で生計を立てていた多くの住民が失業し、補償支払の遅延や代替住宅提供の遅延などにより、地域住民は苦しい生活を強いられてきました。また、アクセス道路の工事に伴う土砂投棄により不正に河原が埋め立てられる事態も生じています。これらの用地・構造物はマタバリ2でも利用予定でした。

インドネシアでは、インドラマユ事業に伴い水田や畑などの農地収用がすでに進められており、多くの農民が生計手段を失うこと、また大気汚染が悪化することを懸念し、6年以上、住民が事業に強く反対し続けてきました。しかし、そうした反対の声をあげた農民たちが身に覚えのない罪で不当逮捕され、6ヶ月収監される深刻な人権侵害も起きた他、地域社会の分断工作も行なわれてきました。

私たちは、今回の外務省による発表を歓迎するとともに、すでに地域住民が受けた被害については、JICAが環境社会配慮ガイドラインに沿った適切な対応をとるよう求めます。

バングラデシュ政府は、マタバリ2について輸入LNGによるガス火力発電への計画変更を模索しています(※1)。しかし、米シンクタンクのエネルギー経済・財務分析研究所(IEEFA)は、バングラデシュの電力供給量がすでに過剰な状態にあり、化石燃料による発電所の新規建設が、バングラデシュの財政悪化や電力コストに深刻な影響を及ぼすリスクがあると述べています(※2)。LNG火力発電容量が増加した場合、値動きの激しいLNG市場に対するエクスポージャーが高まり、ガス料金がさらに高騰するリスクがあることが指摘されています。実際にバングラデシュ政府は、2021年に過去最高水準のLNGスポット価格を支払うことを余儀なくされ、ガス供給会社はバングラデシュエネルギー規制委員会(BERC)に対してガス料金を2倍以上に引き上げる提案を行いました。IEEFAは、2025年にかけての発電容量の導入を制限し、化石燃料による未着工の発電所の建設計画を中止する必要があると提言しています。このような点から、LNG火力発電所の新規建設はバングラデシュにとって経済合理性のあるオプションでないことは明らかです。

インドネシアでは、2022年1月に署名された「日本国経済産業省とインドネシア共和国エネルギー鉱物資源省との間のエネルギー・トランジションの実現に関する協力覚書」(※3)において、「現実的なエネルギー・トランジション」を実現するため水素、燃料アンモニア、CCS/CCUS等の技術革新を日本が支援することが確認されました。それ以降、日本の企業が次々とインドネシアにおいて関連する事業化調査の実施を発表しています。例えば、三菱重工業は、経済産業省の委託で、既設火力発電所向けアンモニア利用発電の事業化調査を受注しています(※4)。しかし、同調査の対象とされているスララヤ石炭火力発電所では、すでに地域住民が高レベルの汚染に晒されるとともに、漁業など生計手段への被害も報告されてきており、石炭火力の延命につながる可能性のある支援には疑問が残ります。また、実用化・商用化の見通しが不確かで(※5)、削減効果が疑問視される水素、アンモニア、CCS等の燃料や技術をエネルギー移行に必要なものとして支援することは、誤った解決策の押し付けに他なりません。

今年5月にドイツ・ベルリンで開催されたG7気候・エネルギー・環境大臣会合では、排出削減対策が講じられていない国際的な化石燃料エネルギー部門への新規の公的直接支援を2022年末までに終了すると約束しています(※6)。同声明は、1.5度目標およびパリ協定の目標に整合的である場合を除くといった例外規定が設けられている点で問題を内包していますが、新規のガス火力発電はこの例外にも当てはまらず、例外規定の恣意的な解釈は許されません。また経済協力開発機構(OECD)の輸出信用部会において2021年11月に改訂された石炭火力発電事業への公的支援に関する新ルール(OECD輸出信用アレンジメント)では、アンモニア・水素混焼技術は排出削減対策として認められていません(※7)。

日本政府には、特にこの週末から開催されるG7サミットを控え、化石燃料への公的支援の2022年内停止というコミットメントを真摯に実施していくことを求めます。すなわち、石炭火力発電所への支援中止にとどまらず、海外における新規のガス火力発電事業やアンモニア・水素混焼技術を利用した火力発電事業など誤ったエネルギー移行を支援しないよう要請します。

 

 

脚注

※1:https://www.thedailystar.net/news/bangladesh/news/matarbari-plant-govt-wont-implement-phase-2-3054276

※2:IEEFA, Bangladesh Power Development Board Financial Results FY2020-21 Growing Independent Power Plant Costs Threaten to Overwhelm Power System

※3:https://www.meti.go.jp/press/2021/01/20220113003/20220113003-2.pdf

※4:https://www.mhi.com/jp/news/22060302.html

※5:トランジション・ゼロ「日本の石炭新発電技術:日本の電力部門の脱炭素化における石炭新発電技術の役割」2022年2月14日

※6:https://www.meti.go.jp/press/2022/05/20220530005/20220530005-1.pdf

※7:https://www.oecd.org/trade/topics/export-credits/documents/Participants%20agreement%20on%20coal-fired%20power%20plants%20(02-11-2021).pdf

 

本件に関する問い合わせ先:

「環境・持続社会」研究センター(JACSES)、田辺有輝
[email protected]

国際環境NGO FoE Japan 波多江秀枝
[email protected]