2022年3月1日

【声明】IPCC第2作業部会第6次評価報告書、発表 気候科学の警告に向き合い、ただちに行動強化を

声明

2022年3月1日

国際環境NGO 350.org Japan

 

IPCC第2作業部会第6次評価報告書、発表

気候科学の警告に向き合い、ただちに行動強化を

 

 

昨日(28日)、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は、第2作業部会の第6次評価報告書を発表しました。世界中の科学者が、気候変動影響とその被害を抑えるための適応策に関する最新の科学的知見を評価し、取りまとめたものです。グテーレス国連事務総長は、この報告書を「人類の苦難の縮図であり、気候に関するリーダーシップの失敗を訴える痛烈な告発状」と表現しています。日本の政府や金融機関をはじめ、すべての主体は、ここに示された気候科学に向き合い、これまでの対策の遅れを省みて、ただちに行動を強化する必要があります。

同報告によれば、人類が引き起こしてきた気候変動によって、極端な気候災害の頻度と強度が増し、自然と人間に悪影響を与えています。同報告は気候変動に関連した紛争と難民のリスクにも言及しており、気候を守ることが平和につながるという重要な示唆が得られます。また、約33〜36億人が気候変動に対して非常に脆弱な状況下で生活しているとも指摘されています。ただちに行動することが必要ですが、残された時間は急速になくなっています。地球温暖化は近い将来1.5℃に達しつつあるとし、1.5℃未満に抑制すれば、一時的に1.5℃を超える(オーバーシュート)場合と比べて深刻なリスクを軽減できるとしています。

科学者たちの警告を踏まえれば、早急に化石燃料依存から脱却し、持続可能な再エネ100%の社会への公正な移行が急務だと言えます。今年6月にはG7サミット(議長国ドイツ)が、また11月にはエジプトでCOP27シャルム・エル・シェイク会議が開催される予定です。

私たち350 Japanは、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻によって傷つき、苦しむすべての人々への連帯を表明するとともに、基本的人権を確保するための国際的支援を求めます。とりわけ脆弱なコミュニティが人権を脅かされる構造は、戦争も気候変動も共通です。気候変動は、これからも、安全保障と並ぶ国際政治経済の最重要課題であり続けます。最新のIPCC報告は、気候変動対策をこれ以上先送りすることは許されないと警告しています。日本各地で気候をまもるために声をあげるすべての市民・若者とともに、日本政府や金融機関に対して、IPCCの最新科学を受け止め、ただちに気候対策を強化するように求めます。

 

 

日本政府の政治リーダー、すべての議員、関係者に対して:

(1) 2030年までの温室効果ガス排出削減目標を現行の「2013年比で46−50%削減」から「同62%削減」へと引き上げ、COP27までに国連に提出すること。2021年のCOP26グラスゴー会議では、各国政府が2030年目標を2022年のうちに引き上げて再提出するよう要請しています。合意に賛成した日本もこれに応える責任があります。

(2) 最大のCO2排出源である石炭火力発電のフェーズアウト方針をかため、そのためのロードマップを策定すること。日本政府は2030年に発電量の19%を石炭火力発電で賄う計画ですが、パリ協定の目標を達成するには、石炭火力発電を2030年までにゼロにしなければなりません。また、脱石炭とともに、危険な原子力発電や、ガス・石油からの脱却の期限を定めた方針も決定する必要があります。

(3) 海外向けの化石燃料インフラプロジェクトへの支援をただちに取りやめること。例えば、バングラデシュのマタバリ石炭火力発電計画は日本政府が首相の政治判断で推進してきたもので、これに国際協力機構(JICA)や日本貿易保険(NEXI)、住友商事なども関与しています。※

(4) 脱炭素を後押しするため、カーボンプライシングの強化を求めます。企業が化石燃料消費をやめるインセンティブを持つ水準の炭素価格を確保し、それを財源にして低所得者層を支援して経済格差の是正を図るとともに、省エネ・再エネを普及させることで日本のエネルギー安全保障を高め、すべての人が暮らしやすい社会へと転換させていくべきです。

ただし、2022年2月28日、住友商事は同プロジェクトの拡張計画(3・4号機)からの撤退を表明した(1・2号機は継続)。

 

 

日本の金融機関に対して:

(1) IPCCの最新報告を受け止め、気候変動が自社ポートフォリオに与える影響を改めて分析すること。パリ協定の1.5℃目標を達成するためには現在の化石燃料資源・インフラの多くが座礁資産となることが運命づけられています。責任ある金融機関としてこのリスクに対処することがサステナブルな経営に不可欠です。

(2) 2050年カーボンニュートラル宣言のみならず、パリ協定1.5℃目標に整合的な2025年、2030年、2040年といった短期中期の脱炭素目標を早急に策定すること。近年、市民の働きかけや投資家の要請もあって金融機関の間でも2050年カーボンニュートラル宣言が広がりました。これは前進ではありますが、1.5℃目標の達成のためには、直近の行動強化が必要です。

(3) 化石燃料に対する巨額の資金の流れを断ち切るため、石炭・ガス・石油への新規投融資をやめ、既存の投融資をフェーズアウトしていく方針とロードマップを策定すること。石炭火力発電の新規案件は支援しないという方針を掲げる銀行もありますが、継続案件、CCUSやアンモニア混焼など実質的な気候対策にならない計画、石炭の調達・採掘に係る企業などは例外で、今も投融資が続けられています。そのような抜け穴だらけの方針では、グリーンウォッシュだとの批判を免れません。

 

 

横山隆美(350 Japan・代表)は、次のようにコメントしています。

最新のIPCC報告は、改めて私たちが危機の只中にいることを明確にしました。日本でも記録的な豪雨による水害、災害級の熱波が非日常ではなく日常になりつつあります。気候危機の恐ろしさを知りながら、その原因となる化石燃料に巨額の資金を投じ続ける過ちをこれ以上繰り返してはなりません。今ただちに行動すれば、気候危機の進行を防ぐとともに、化石燃料による大気汚染や自然破壊を減らし、より平和で一人ひとりの人権が守られる公正な社会へと転換することができるはずです。また、そのことがエネルギー安全保障を高め、化石燃料輸入コストを節減し、クリーンエネルギー産業のクリーンな雇用機会を増やすなど、日本の経済社会の安定にも寄与することとなるでしょう。最新のIPCC報告は、行動が遅れれば遅れるほど、気候および経済社会の代償はより大きくなることを警告しています。

 

メイ・ブーヴェ(350 Global・事務局長)は次のようにコメントしています。

このIPCC報告書は、化石燃料が気候変動問題を引き起こしているということを証明しています。しかし、良いニュースは、どうすれば化石燃料産業から私たちの未来を取り戻せるか、私たちは熟知しているということです。金融機関が大手化石燃料会社への投融資をやめ、締め出すよう訴えればよいのです。今こそ、世界中で急速に広がっている地域コミュニティ主体の解決策を支援すべき時です。

 

ジョセフ・シクル(350 Pacific・地域担当ディレクター)は次のようにコメントしています

太平洋地域に生きる人々にとって、IPCC報告書によって説明されている過酷な気候変動の影響は、これまで経験してきた現実そのもので、特に目新しいものではありません。私たちは、イノベーションやハイレベルな気候変動交渉のリーダーシップ、そして先住民の何世紀にも及ぶ知恵によって、気候変動影響への解決策を打ち立て、レジリエンス(強靭性)を高め続けます。しかし、そのための費用を支払うべきは、私たちではありません。今こそ、最も気候危機に重い責任を持っている主体が、お金の流れを変え、化石燃料ではなく、地域コミュニティ主体の、公正な解決策を支援すべき時です。

 


本件に関する問い合わせ先:

国際環境NGO 350.org Japan、伊与田昌慶、[email protected]