共同プレスリリース
2022年1月20日
国際環境NGO 350.org Japan
「環境・持続社会」研究センター(JACSES)
東京海上、チャブ、MAPFREがブラジルのオフショア石油採掘の拡大を支援していることが判明
気温上昇を1.5℃未満に抑えるためには化石燃料事業の拡大を停止すべきとするIEAの警告に反して、東京海上、アクサ、 Liberty Mutual等の保険会社もブラジルの化石燃料採掘拡大計画に関与
2022年1月20日ー世界の保険会社に対して気候変動対策を求めるInsure Our Futureキャンペーンが発表した報告書「気候変動を悪化させる~ブラジルのオフショア石油拡張の背後にいる保険会社(PDF)」によると、国際的な保険会社である、東京海上、チャブ、MAPFREの3社がブラジルのオフショア石油・ガス採掘事業の保険を引き受けていることが判明した。本報告書はこれまで公開されてこなかった内部資料を用いて、ブラジルの石油・ガスの約93%を採掘している国営石油会社であるペトロブラスの保険を引き受けている保険会社3社の実態を明らかにしている(※1)。東京海上とチャブは、Liberty Mutual、アクサ、Fairfax、Argo、そしてブラジルの複数の保険会社とともに、探査事業に関与している多国籍企業に保険を提供していることもわかった。
ブラジル企業のペトロブラスは、オフショア石油・ガス採掘の大規模な拡張事業を計画している。これは化石燃料の拡張事業を直ちに停止し、既存の事業を速やかに廃止する必要があるとするIEAによる科学的な結論とは正反対の行動である。また、国連は、毎年石油の生産量を4%、ガスの生産量を3%減少させなければならないと指摘している。しかし、ブラジルの石油採掘は今後10年間で最大70%増加する予定である。石油の生産拡大は、現在のブラジル政府に存在する冷酷な経済優先の方針に基づいて計画され、2021年には、2006年以来で最大レベルに森林破壊が拡大した。保険会社はブラジルの化石燃料事業を支援することによって、気候の大惨事をもたらすことになる。
350.orgのLatin America DirectorであるIlan Zugmanは「チャブ、MAPFRE、東京海上のような多国籍企業が、ブラジルにおける地球上で最も脆弱な地域で石油採掘を行っている化石燃料企業を支援していることは、全くもって不条理なことである。」と述べている。
Rainforest Action NetworkのSenior Energy Finance CampaignerであるElana Sulakshanaは「チャブのCEOであるEvan Greenberg氏は、「地球の資産管理人」としての役割を果たしていると述べている。しかし、気候変動、生物多様性、人権に配慮すると表明している以上、ブラジルの石油・ガスの探査や拡張事業の保険を引き受けてはならない。チャブやLiberty Mutual、MAPFRE、東京海上が自分たちの発言に沿った行動をとるためには、ブラジル、世界中の石油・ガス拡大への支援を直ちに止める必要がある。
ブラジルのオフショア石油埋蔵量の大半は、世界で最も大きなサンゴ礁のひとつであるグレートアマゾンリーフに存在する。そこはアマゾン川の河口からカリブ海まで約1,000キロ以上に渡る地域にあり、多くの絶滅危惧種の生息地である。チャブ、MAPFRE、東京海上が保険を提供しているペトロブラスは、サンゴ礁が生息し手付かずの状態にある地域で、多数の権益を保有している。Liberty Mutualとチャブはフォスドアマゾナス盆地におけるBP Energyの探査事業の保険を引き受けている。
Zugmanは、「石油・ガスセクターの拡大は、ブラジルがパリ協定に沿うことを妨げるだけでなく、伝統的な零細漁業者、キロンボラ(アフリカ系ブラジル人の子孫)、先住民族等、すでに脆弱な立場にあるブラジルの何百万もの人々の生活に被害を与えかねない。悲しい事例として、2019年に起きたブラジル史上最大規模の石油流出によって被害を受けたコミュニティは今だに適切な賠償を得ておらず、その土地には今なお汚染が残されている。」と述べている。
2019年にブラジル北東部で起きた石油流出は、3,000キロを超える地域に広がり、海岸やマングローブを覆い、サンゴ礁、カメ、クジラ、鳥類の命を奪った。さらに、零細漁業と観光業に生計を依存している地域経済を破壊した。キロンボラ、先住民族、海を生存の糧にしている零細漁業者はオフショア石油・ガス事業に対して数十年に渡って抗議してきた。
もしも保険会社が化石燃料採掘への支援を拒否していたならば、石油・ガスの採掘は実施されることなく、油が流出することもなかっただろう。保険会社35社が石炭の引受を制限したことによって、引受範囲の縮小や、保険料の値上げが生じており、いくつかの事業では保険を契約するのに苦戦している。保険業界は保険会社10社が市場の70%を支配しており、石油・ガス会社に対しても同じような影響を与えることができる。
Amazon WatchのClimate and Finance CampaignerであるPendle Marshall-Hallmarkは、「ペトロブラスは腐敗した化石燃料企業であり、自らの利益のために、ブラジル政府に深刻な人権侵害や環境破壊を行わせている。アマゾン生態系のような気候変動対策や先住民族の権利にとって重要な地域において、化石燃料事業拡大のための保険引受や投融資を行うことは、最新の気候科学が警告する通り破滅的な選択である。世界中の保険会社や投融資機関は、アマゾンでの石油・ガス事業から直ちに撤退しなければならない。」と述べている。
保険会社がブラジルで石油・ガスの拡大を支援していることは、各社が発している気候変動についてのメッセージと矛盾している。
350 Japanの代表者である横山隆美は「保険会社は地球温暖化によって引き起こされる自然災害の増加に脆弱な業界であるため、気候リスクを管理し緩和させなければならない。東京海上やその他保険会社が行っていることは、正反対のことであり、石油・ガス事業への保険を引き受けることでリスクを増加させている」と述べている。
アクサはかつて気候変動対策でのリーダーと呼ばれ、実際に石油・ガスの保険引き受けに関する方針を2021年末に掲げた。しかし、石油・ガス採掘の拡張事業のすべてを停止対象としておらず、Phoenix Oleo & Gasのポティグアル盆地での探査事業に対して支援を行う余地を残している。ポティギュアル盆地には、ブラジルで最初に設立された国立海洋保護地域であるフェルデナンドデノローニャマリン国立公園とロカス環礁が存在しており、シロナガスクジラの生息地である。
「環境・持続社会」研究センター(JACSES)のプログラム・ディレクターである田辺有輝は、「東京海上CEOの小宮暁氏は、気候変動を真正面から取り組むべき最重要課題と位置付けていると述べている。しかし、東京海上がブラジルでのオフショア石油採掘を支援していることは、ネットゼロ・インシュアランス・アライアンス(NZIA)の新規メンバーとして掲げているコミットメントの内容と矛盾する。東京海上は化石燃料事業への保険引受、投融資を停止する包括的な方針を掲げる必要がある」と述べている。
Reclaim Financeの Fossil free finance campaignerであるLouis-Maxence Delaporteは、「アクサが世界有数の多様性や海洋生物のホットスポットにおいて、石油会社や石油採掘事業の保険を引き受けている事実は、アクサの方針は穴だらけで効果がないことを示している。アクサの方針はIEAのnet zero pathwayのように明瞭であるべきであり、全てかつ新規の石油・ガス事業の保険引き受けを直ちに停止するべきだ」と述べている。
アクサが東京海上、チャブ、Liberty Mutual、Fairfax、Argoとともに、Phoenix Oleo & GasやBP Energyのような多国籍企業に提供している保険はパフォーマンスボンドと呼ばれる。これは、石油会社が必要最小限の探査を行うレベルの金銭保証をブラジル政府に提示する方法のひとつである。
Insure Our Futureキャンペーンが発行した「Fueling Climate Change: The Insurers Behind Brazil’s Offshore Oil Expansion」の調査結果は、情報公開請求を通じて入手された。しかし、2021年4月の規則変更により、今後このような情報を情報公開請求によって入手することができなくなるだろう。
Naira HofmeisterやPedro Papiniとともに本件の調査を行っているジャーナリストであるFernanda Wenzelは「もともと保険業界の情報を入手することは非常に困難だが、規則の改悪によって益々困難になるだろう」と述べている。
以上
*Insure Our Futureキャンペーンは、環境、消費者保護、先住民族の権利、気候危機における保険会社の役割について保険業界に責任を追及するため、草の根組織によって構成されたキャンペーン。国際環境NGO 350.orgは、Insure Our Futureのパートナーの一つ。
脚注:
※1:ペトロブラスの一般的な民事責任の保険を東京海上(40%を引受)とチャブ(60%を引受)が引き受け、輸送についての保険をチャブ(50%を引受)、MAPFRE(40%を引受)、東京海上(10%を引受)が引き受けている。Gard P&I Ltd.とSkuld UK P&Iは共同して海洋保護および損害補償についての保険を引き受けている。さらに、ブラジル企業のAustral Seguradoraは商品や設備について生産・探査事業のリスクに関する保険を100%引き受けている。
本件に関する問い合わせ先:
- <日本語版リリース>
国際環境NGO 350.org Japan、伊与田昌慶、[email protected]
「環境・持続社会」研究センター(JACSES)、田辺有輝、[email protected] - <英語版リリース>
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Camilla Schramek, [email protected], +45 50 22 92 88