2020年10月26日

【プレスリリース】菅首相、所信表明演説で2050年カーボン・ニュートラル方針を発表

プレスリリース

2020年10月26日

国際環境NGO 350.org Japan

 

菅首相、所信表明演説で2050年カーボン・ニュートラル方針を発表

2030年までの石炭火力発電全廃を含む具体的な実行計画の作成と実行が問われる

 

 

本日、菅首相は臨時国会で就任後初の所信表明演説を行い、その中で2050年にカーボン・ニュートラル(温室効果ガスの排出量を実質ゼロ)にする方針を発表しました。日本政府はこれまで、「温室効果ガスの排出を2050年に80%削減し、今世紀後半の早い時期に脱炭素社会を実現する」と表明してきましたが、それは世界の平均気温上昇を産業革命前と比べ2度よりも十分低く、1.5度に抑える努力をするという温暖化対策の国際的合意である「パリ協定」との整合性が問われるものでした。また今年は、パリ協定での削減目標を5年ごとに改定する年にあたります。各国が目標引き上げを発表、検討しているにもかかわらず、政府は3月に改定しないまま国連に再提出し、世界第5位の排出国としての義務を果たしていないとして国内外から非難を浴びていました(注1)

本日の所信表明演説で、パリ協定の1.5度目標と整合的とされている「2050年カーボン・ニュートラル」とする方針に舵を切る方向へ転換したことは評価したいと考えます。しかし、先進国の歴史的責任に鑑み、日本のカーボン・ニュートラル目標はより早く実現すべきです。また、重要なことはその目標を確実に達成できる具体的計画と実行です。

 

石炭火力発電全廃の重要性

菅首相は演説の中で「石炭火力発電に対する政策を抜本的に転換」すると発言しました。パリ協定1.5度目標達成のためには、2030年には先進国で、2040年には世界全体で石炭火力発電を全廃しなければなりません。したがって、石炭火力への対応は政府計画の本気度の試金石になります。世界の平均気温が問題である以上、国内はもとより海外での石炭火力の新設も許容できないはずです。しかし、現段階では政府は高効率の石炭火力の新設や海外への輸出を止める方針転換は発表しておらず、これらの方針転換なしでは「2050年カーボン・ニュートラル」目標が単なる絵に描いた餅に終わってしまう懸念があります。

 

不確実性の高い技術に頼らない実行計画の策定

現時点で実用化できている技術に基づく「2050年カーボン・ニュートラル」目標達成の実行計画を立てることも重要です。所信表明演説では「カーボンリサイクルなどの革新的技術」の活用の重要性に言及されていましたが、二酸化炭素回収・利用・貯留技術(CCUS)など、今後開発される技術に依存した脱炭素化の計画では、その技術が実現できなかった場合、目標は達成されずその時点で手遅れになってしまいます。不確実性の高い技術に多額の税金を投じ、次世代にさらなる負担を強いるべきではありません。また、核廃棄物の問題や事故時の安全確保に問題のある原発にも頼るべきではありません。

 

グリーン投資を後押しするための環境整備

脱炭素化の促進には、すでに世界で普及しつつあり、価格も下がり続けている再生可能エネルギーや省エネなどへの、積極的投資が不可欠です。そのためには、次期エネルギー基本計画において、2030年度の再生可能エネルギーの比率を現行の22~24%から大幅に上げる政策目標が不可欠です。また、助成策など財政的バックアップを計画に組み込み、企業が安心して長期的視野でグリーン投資できる環境作りが必要になります。

 

「バックキャスティング型」思考の実行計画の策定を

今月13日から資源エネルギー調査会基本政策分科会で、エネルギー基本計画の改定に向けた議論が開始されました。異常気象の増加など気候危機が深刻化する中、今求められているものは、あるべき未来の姿から逆算して構築される「バックキャスティング型」思考の計画であり、今までの対策の延長でできる方策ではありません。

 

「2050年カーボン・ニュートラル」目標は、わが国のエネルギー基本計画と密接な関係にあり、次期エネルギー基本計画が、この新たな排出目標と十分整合していることが不可欠です。そのためには、パリ協定と整合的な2030年の排出削減目標を掲げ(注2)、裏付けになる実行計画も明確にする必要があります。

世界は今、まさに脱炭素社会に向けた産業構造の転換競争に入っています。菅首相が本日の所信表明演説で「世界の環境分野でリードする」との意思を表明した以上、上記のような問題点を解決し、具体的かつ効果的な実行計画を策定し実行に移すことが不可欠です。

 


<脚注>
注1: https://www.can-japan.org/press-release-ja/2732
注2: IPCC1.5度特別報告書によれば、1.5度目標達成のためには、世界全体の温室効果ガスの排出量を2030年に2010年比で半減させる必要がある。EU内では、現在1990年比で55~65%削減する案が議論されている。

<本件に関するお問い合わせ>

国際環境NGO 350.org Japan 

代表 横山隆美

Email: [email protected]