2019年8月28日

メガバンク・グループ3社等に対する 具体的な気候変動対策への要請とその回答を発表

プレスリリース

2019年8月28日

国際環境NGO350.org Japan

 

メガバンク・グループ3社等に対する
具体的な気候変動対策への要請と
その回答を発表

 

国際環境NGO「350.org」の日本支部(350.org Japan(以下350 Japan))は本年6月6日にメガバンク・グループ3社(株式会社みずほフィナンシャルグループ(以下みずほFG)、株式会社三井住友フィナンシャルグループ(以下三井住友FG)、株式会社三菱UFGフィナンシャル・グループ(以下MUFG))および全国銀行協会と金融庁長官に提出した要請に対する回答と評価を発表した。

 

要請に対しメガバンク・グループ3社からは添付資料にある通り回答があった。全国銀行協会からは「個別の回答および個別銀行の取組みに関する回答は差し控えさえていただきます。」という回答があり、金融庁からは書面での回答はなかったものの、面談での意見交換が予定されている。

 

当団体および個人賛同者1002名(推定預金金額25億510万円)の要請は以下の通り。

  1. TCFDの提言に従って投融資先企業における温暖化効果ガス排出量の情報を、一貫性・比較可能性・信頼性・明確性をもたせた形で、積極的な開示を行うこと。
  2. パリ協定が定める「世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べて1.5~2.0未満に抑える目標達成」に整合した事業戦略・投資方針を策定すること。
  3. 科学的知見に基づき、最もCO2排出量の多い石炭火力発電所や化石燃料開発への新規投融資を停止し、自然エネルギー社会への公平・公正な移行を促す投融資を実行すること。
  4. 邦銀に国連「責任銀行原則」への賛同声明を促すこと。

 

気候変動対策の具体的取り組みを求める上記要請に対するメガバンク・グループ3社の回答(リンク)を、各社の最新の統合計画書[*1]に照らし合わせ弊団体が評価を行った。

 

  1. 各社TCFDの提言に従って、気候変動リスクに対応する戦略において各社が炭素関連資産のポートフォリオ全体に占める割合等を開示したことは評価できると考える。MUFGは「炭素関連資産がポートフォリオ総額に占める割合は6.6%」、三井住友銀行における「炭素関連資産(電力、エネルギー等)は貸出金の7.8%」、みずほFGは「計測したエネルギーセクターおよびユーティリティセクター向け信用エクスポージャー(EXP)が信用EXP総額に占める集中度は約7.2%」とそれぞれ開示している。自然エネルギーへの投融資に関しては、各社積極的な姿勢が見られ残高が増加していることは歓迎するが、化石燃料関連投融資の残高とともに開示することではじめて、投資家に適切な情報を提供したと言うことができる。
    シナリオ分析に関しては、MUFGが「『2℃シナリオ(持続可能な開発シナリオ)』を前提に、移行リスクを対象として財務的な影響の定量的な把握に取り組んでいる」ことを記しており、今後の具体的な開示が待たれる。みずほFGはパリ協定に基づくシナリオには具体的に触れていない。三井住友FGは気候変動に伴う物理的リスクを対象としたシナリオ分析を実施し、その影響評価の結果を具体的に開示していることは評価できる一方で、国内の取引先である事業法人に限定したこと、そして移行リスクが含まれていないため、分析対象先の範囲の拡張を期待する。また、リスク管理の分野ではMUFGは石炭火力発電所向けの与信残高が中長期的に逓減すると記していることは評価したい。三井住友とみずほFGの開示内容には具体的なコミットメントは見れない。TCFDでは「組織が今直面している最も重要なリスクの一つ」として気候変動リスクを挙げている。気候変動の結果今世紀末までに、世界の運用可能資産の損失額が4.2兆ドルから43兆ドルと推定されている。このような将来のリスクに対し、投資家が比較する際に必要とする、低炭素経済への準備に関する一貫した信頼できる情報が積極的に提供されているとは言えない。例えばカーボン・プライシングの上昇や再生可能エネルギーへの転換による座礁資産化など、規制強化や産業全体が低炭素へ転換する移行リスクの管理について、3グループともに具体的記述が見られない。指標と目標に関しては、統合報告書に記述ではみずほFGがSBT(Science-based Targets:科学的根拠に基づく目標)の導入を検討すると昨年と同様に示唆し、MUFGが2030年度までに環境分野で累計8兆円のサステナブルファイナンス実施に触れているが、それ以外は事業活動におけるCO2削減の開示に止まっている。パリ協定1.5℃目標に整合するために、投融資先ポートフォリオにおけるCO2排出量の情報開示並びに削減目標の設定が極めて重要だが、本件に関しては3グループとも記述が見られない。

    海外の例をとれば、政府が温暖化対策に消極的と言われているオーストラリアのコモンウェルス・バンクが、気候変動に関わる開示に8ページを割き、2030年までに一般炭炭鉱や石炭火力発電への融資残高をゼロにすることを表明している。今後、質と量の両面でさらなる開示を進めることが望まれる。

  2. 事業戦略・投資方針に関しては、各社のCEOメッセージ、CFOメッセージの中でMUFGのCEOがTCFDに触れているのは評価できる。CEOやCFOのメッセージは社内外へ会社の方針を明確に打ち出すものであり、記述がないということは、グループとして地球温暖化に対し真剣に取り組む意思があるのか疑問を持たざるを得ない。戦略の基礎となる各社の価値創造プロセスにおいて、MUFGと三井住友FGは気候変動あるいは低炭素社会を社会的課題として取り上げているが、みずほFGは環境変化の記述において具体的な言及はなかった。3社の中でMUFGが唯一、パリ協定の2℃シナリオに触れていることは評価できる。他2社はパリ協定に明確には言及していない。また、統合計画書の記述に関する限り、昨年のIPCC1.5℃報告書を踏まえ世界の共通認識になりつつある、1.5℃シナリオを採用している会社はないと思われる。
  3. 石炭火力発電所や化石燃料開発への新規投融資を停止することに関しては、MUFGが「新設の石炭火力発電所へのファイナンスは、原則として実行しません。」と宣言しているのは一定の評価ができる。一方で、「原則として」という表現が示唆する例外による石炭関連ファイナンスはパリ協定と整合せず、ロジェクトファイナンスのみならず、二酸化炭素排出量の多い石炭セクターや化石燃料開発などへのエクスポージャーの高い企業への企業融資や金融サービス全般の規制が求められる。一方、三井住友FGは「低炭素社会への移行段階として、石炭火力発電所への新規融資は地域を問わず超々臨界及びそれ以上の高効率の案件に融資を限定しています。」としているが、超々臨界であっても、他の化石燃料と比較してもCO2の排出量は多く、低炭素社会への公平・公正な移行との整合性がない。みずほFGは「原則、世界最新鋭である超々臨界圧及び、それ以上の高効率の案件に限定」とし三井住友FGと同様の問題があり、両グループともOECDなど国際的ガイドラインや各国政策等との整合性に言及する一方、パリ協定との整合性には触れておらず、取り組みの真剣さに懸念が持たれる。また、公平・公正な移行という観点からは、近年大規模再エネ開発の環境破壊が問題になっていることに鑑み、個々の投資判断において持続可能性を考慮した適切な環境アセスメントの実行を確保するよう求めたい。
  4. 9月に正式発足が予定されている「責任銀行原則」にメガバンクグループ3社ともが署名したことは評価できる。しかし、最も重要な事は原則の精神の遵守である。本原則では、パリ協定に基づく社会のあり方に貢献すること、顧客と責任ある行動をとること等が明記されている。本原則においてもTCFDの提言同様、情報の透明性が求められている。情報開示が投資家や顧客の適切な判断に繋がるばかりでなく、自社の状況を的確に把握し行動することによりパリ協定やSDGsの目標達成に寄与し、ビジネスの持続性にも資すると考えられることから、本原則に基づく積極的情報開示を期待したい。海外投融資においても本原則に基づいた責任ある行動が必要である。メガバンク・グループ3社が関与している、ベトナムVan Phong石炭火力発電所では現地の環境破壊や強制的な住民移転に対し抗議活動が行われており、インドネシアのCirebon2石炭火力発電所では贈収賄が問題となっている。責任銀行原則からこれらのファイナンスの再考を求めるものである。

 

当団体は昨年から「預金先の銀行及び投資先の金融機関が、地球温暖化を促進するビジネスを支援し続ける場合、私・弊団体は2020年東京オリンピックまでに「地球にやさしい預け先*」を選びます。」という宣言を個人と団体から収集した。この宣言(ダイベストメント宣言)への賛同者は1,002名となっており、温暖化に対する金融機関の関与やダイベストメントに対する国民の関心は確実に高まっている。

メガバンク・グループ3社は、わが国のみならず世界の経済活動に多大な影響力を持ち、将来の社会のあり方に大きな役割と責任がある。現在、世界が直面し迅速な解決が求められている地球温暖化に対し、パリ協定、TCFD提言、責任銀行原則に則った投融資活動により、脱炭素社会への移行をリードすることを期待したい。

 


 

本件に関するお問い合わせ先:

国際環境NGO 350.org Japan代表 横山([email protected]

 


[*1] MUFG統合報告書(65-71ページに注目): https://www.mufg.jp/dam/ja/ir2019/pdf/05.pdf
三井住友FG統合報告書(77ページに注目):https://www.smfg.co.jp/investor/financial/disclosure/fy2018_f01_pdf/fy2018_f01_00.pdf
みずほFG統合報告書(45-48ページに注目):https://www.mizuho-fg.co.jp/investors/financial/disclosure/pdf/data19d_all.pdf