2019年11月21日

【プレスリリース】エクエーター原則(赤道原則)改訂版は化石燃料ファイナンスを制限せず、民間銀行は気候危機を無視

プレスリリース

2019年11月20日

エクエーター原則(赤道原則)改訂版は化石燃料ファイナンスを制限せず、民間銀行は気候危機を無視

 

日本、東京  101行の加盟銀行を有するエクエーター原則協会は11月18日、シンガポールで開かれた年次総会において、大規模プロジェクトファイナンスにおける環境・社会リスクを評価・管理する金融業界のベンチマークであるエクエーター原則改訂版(EP4)を採択 (注1)。 加盟銀行には、化石燃料産業への融資機関として批判を浴びている、日本最大手の三菱UFJ銀行、みずほ銀行、三井住友銀行等のほか、グローバル企業であるバークレイズ、シティグループ、HSBC、JPモルガン・チェース、スタンダードチャータードなどが含まれる。

地球の気温上昇を1.5℃未満に抑えるため、過去2年間に及び300以上の市民団体が、エクエーター原則加盟銀行に対して、石炭火力発電や他の化石燃料インフラへの新規融資を行わないよう、明確な意見と要求を発してきたにもかかわらず、エクエーター原則最新版となるEP4 (注2)は気候危機の逼迫した現状を反映しておらず、単に序文において下記のようなプロジェクトファイナンスへの参考意見を付記したにすぎない。

 

当協会は、2015年パリ協定の目標を支持するとともに、エクエーター原則に基づいて融資を受けるプロジェクトの潜在的な移行リスクと物理的リスクを評価する際、気候変動関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)からの提言など、気候関連情報をよりよく周知していく役割をエクエーター原則金融機関(EPFI)が担っていることを認識している(p3)。”

 

プロジェクトファイナンスに際し、パリ協定との整合は必須条件ではなく、代わりに「原則2:社会・環境アセスメント」の一部として、クライアントは人権に対する潜在的な悪影響*と気候変動リスクの評価をアセスメントドキュメントに含めることが期待されるという条項が新たに含まれている(p9)。 このアセスメントドキュメントは、「労働者や影響を受けるコミュニティ、ならびに環境に及ぼされるリスクや影響を、最小化し、緩和する、あるいは影響が残る場合には補償、相殺、賠償を行うための対策を提案する必要がある。」 

ここに「回避」という言葉が含まれていないのが問題である。新しい化石燃料開発プロジェクトにより、容認しがたい気候変動リスクが現在そして将来に渡って人々に及ぼされると評価された場合、IPCC報告書が明確に示しているように、そうしたプロジェクトは最初から回避されるべきである。

温室効果ガス削減案に加え、TCFD提言に即した気候関連の物理的リスクおよび移行リスクを含むプロジェクトのリスク評価と、具体的な気候変動リスク評価がEP4に含まれたことは一歩前進と言えるだろう。 しかしながら、「プロジェクト受入国の気候変動対策に関わるコミットメントにプロジェクトが一致するかどうかの審査」、代替案分析の公開、温室効果ガス削減案の採択はいずれも、エクエーター原則金融機関の判断に任されており、プロジェクトが温室効果ガス削減目標に整合しない場合の対応策は明確にされていないのが現状である。

最新の科学的根拠に即して、炭素集中型の化石燃料開発プロジェクトを具体的に排除するまでに至らなかった、本EP4のフレームワークは、いかなるコンプライアンスおよび透明性ある情報公開も義務付けないうわべだけのリスク評価であり、従来のビジネスのあり方を容認していく可能性が高い。

EP4のフレームワークにおける気候に関する脆弱な規定が示しているように、加盟銀行は本フレームワークを実施するのみでは、融資に関わる環境・社会リスクを適切に管理していると主張することはできない。 このことは特に日本とアメリカの銀行に顕著に当てはまると言える。内部情報によると、今回より進歩的な改訂を阻んだのは両国の銀行だと言われているからだ。

エクエーター原則協会が厳格な気候変動コミットメントを拒否する今、石炭および化石燃料開発への新規融資の拒絶、ならびに気温上昇1.5℃目標達成に向けた既存ポートフォリオのフェーズアウト計画など、パリ協定遵守へのコミットメントを行動で示すかどうかは個々の銀行の責任ある行動に委ねられている。 

 


 

【脚注】

(注1) https://equator-principles.com/ep-association-news/a-strengthened-equator-principles-and-new-leadership-for-the-association/

(注2) https://equator-principles.com/wp-content/uploads/2019/11/The-Equator-Principles-November-2019.pdf

 

*人権について、プロジェクトの人権に及ぼす影響を評価する際、国連のビジネスと人権に関する指導原則(UNGP)が参考として言及されているが、評価プロジェクトがUNGPを必ず遵守すべしとは言明されていない。

先住民族の権利に関しては、原則5:ステークホルダー・エンゲージメントにより厳正な記載がある。それによると、先住民族が影響を受ける決定等に「事前の自由なインフォームド・コンセント(FPIC)」を受ける権利をプロジェクト側に義務付けた国際金融公社(IFC)のPerfmance Standard 7に則り、EPFIには、先住民族に影響を及ぼす全てのプロジェクトにおいて、十分な説明と協議のプロセスが実施されたことを実証する義務が課されている。 

350.org, Banktrack, Rainforest Action Network, Sahabat Alam Malaysia (SAM)/Friends of the Earth Malaysia, Legal Rights and Natural Resources Center/Friends of the Earth Philippines, NGO Forum on ADB 

 


 

【コメントやインタビューに関する問い合わせ先】

350.orgアジア地域ファイナンス部門シニア・キャンペーナー 古野真 

E: [email protected] T:+81(0)70-2793-3648