2019年10月24日

【プレスリリース】国際環境NGO350.org Japan声明: 日本のビジネス界は気候危機問題の解決に向け 国際社会と足並みをそろえた行動が必要である

プレスリリース

報道関係各位

2019年10月24日

国際環境NGO350.org Japan

 

国際環境NGO350.org Japan声明

日本のビジネス界は気候危機問題の解決に向け国際社会と足並みをそろえた行動が必要である

 〜経団連「サステナブル・ファイナンスをめぐる動向に対する課題認識」への意見〜

9月4日、一般社団法人日本経済団体連合会(以下経団連)の環境安全委員会地球部会、国際環境戦略ワーキング・グループは「サステナブル・ファイナンスをめぐる動向に対する課題認識」を発表しました(注1)。気候危機への対応が全人類にとって喫緊の課題となっている中、世界第5位の温室効果ガス排出国であり、GDP世界第3位の我が国をリードするビジネス界の代表である経団連による気候危機対策に後ろ向きと取らねかねない発言には大変な危惧を抱きます。

欧州の多くの中央銀行をはじめ世界の金融業界では、経済の脱炭素化を促す政策・規制の導入が急務であることが共通認識になりつつあります。気候変動に伴うリスクに対して世界経済の安定を維持する一つの重要な措置として、金融の脱炭素化を明確に分類し、持続可能な経済活動への投融資を増加させるためのスタンダードとして、欧州委員会が経済活動の「グリーンタクソノミー」を検討し、来年までの法律化が期待されています。(注2)

我が国でも、経産省をはじめTCFD提言への対応には積極的であり、今年5月にはTCFDコンソーシアムが設立され、経団連のメンバーを中心に162の企業が参加しています。また、今月「グリーン投資ガイダンス」が公表になり、気候変動に向けた企業の積極的開示をさらに進める方向が確認されています。

日本のビジネス界には、このような先進的な動きに対抗するのではなく、政府が掲げる「経済と環境の好循環」の実現に真正面から取り組む姿勢が期待されます。

 

以下は、経団連声明に関する弊団体の意見です。

 

1. サステナブルの定義はパリ協定に整合すること

「『サステナブル』の判断は環境側面だけでなく、総合評価に立脚すべき」では、EUのタクソノミーに関する報告が環境側面だけに注目していることを適切でないと指摘している。また、サステナブルかどうかの判断は「多面的要素を考慮した総合評価に立脚すべき」と書かれている。しかし、温暖化対策と成長のバランスを取った政策が求められているのはもちろんであるが、そのバランスは、あくまで国際的合意であるパリ協定に対する整合性を確保した上での話である。現在世界で共通の目標になりつつある1.5℃どころか、2.0℃にも届かないと言われている我が国の現状を考慮すると、まずパリ協定の遵守を優先すべきである。

 

2. 効率化のみでは1.5C目標は達成不可能

「民主導の非連続的なイノベーションを阻害してはならない」の項目で、気候変動の緩和に貢献し一定の基準・閾値を満たす「グリーンリスト」が固定化されると、既存の様々な技術や投資のエネルギー効率改善・低炭素化に向けた投資が阻害され、事前にリスト化できない技術的イノベーションの芽が摘まれると危惧している。

気候変動対策に関し画期的技術が開発されれば、仮にリストになくても歓迎されるのは当然である。本コメントは脱炭素社会構築に向けた構造変革ではなく、炭素依存の現在の経済構造を延命させることが目的ではないかと、疑念を持たざるを得ない。

パリ協定に関しては、「ゴール実現に向けて評価されるべきは、ある時点のレベルよりも、ゴールに向けた改善の進捗レベルであることに留意すべき」としている。パリ協定で求めているのは世界の平均気温の絶対的目標の達成である。「以前より良くなっている」程度の進捗を容認するかのような姿勢では気候危機対策を進めることはできない。

 

また、「バリューチェーン全体を見通した総合的な環境評価を行うことが必要」とされていることは、全くその通りである。バリューチェーン全体の絶対的温室効果ガス削減目標が評価基準になるのは当然である。しかし、総合的な評価の具体的方法を提示しない限り、個々のセクターの責任を曖昧にするだけである。

 

3. 気候変動リスクを抑えるには国際基準及び国際金融規制が必要

「タクソノミーの拙速な国際基準や国際金融規制への活用に反対」では、「EU以外の国々の考え方が十分反映されていない現行のタクソノミーを国際標準化し、世界各国に画一的に適用することは、途上国を含む世界の持続的発展を妨げる恐れがある」としている。産業革命以来温室効果ガスを多量に排出してきた、先進各国が大きな責任を負うべきであるという気候正義(クライメート・ジャスティス)の考え方に立脚すれば、このコメントは途上国に関しては考慮すべき点があるかもしれない。しかし、先進国であり、しかも気候変動対策では周回遅れと言われている我が国が、より緩い基準を求めるかのようなコメントは国際的にも受け入れられないだろう。

「タクソノミーを銀行等への金融機関に活用することは、銀行経営への過度な負担を招くのみならず、金融機関のシステミック・リスクをかえって増幅させ」という記述もあるが、リスクを適切に開示することが、リスクを増幅させるという根拠が曖昧なばかりか、EUの銀行が容認することを、我が国の銀行が容認できないとする理由もない。気候危機をもたらした経済活動がこのまま進めば、「世界の持続的発展」は不可能である事をまず理解する必要がある。低炭素社会から脱炭素社会へのパラダイムシフトが起きている中、過去の経済成長モデルにしがみつくことこそが「システミック・リスク」を及ぼす行為だ。

 

前文で「特定の国・地域で講じられた施策の影響は、当該国・地域にとどまらず、グローバルに波及し得る」としている通り、二酸化炭素排出量が世界第5位の我が国の排出の影響が、地球全体に及んでいる。GDP世界第3位の経済をリードする経団連が、気候変動に対する責任を積極的に受け入れ、持続的な地球環境を維持するリーダーとなることを願ってやまない。

 

(注1)https://www.keidanren.or.jp/policy/2019/069.html

(注2)https://www.esg.quick.co.jp/research/1059

 

本件に関するお問い合わせ先
国際環境NGO 350.org Japan 代表 横山隆美
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Tel: 090-4668-6653