このブログは現在350.org Japanのインターンである、高橋淳志君によって書かれたイベントレポートです。


350.org Japanは、去る8月8日にシンポジウム「金融界の世界貢献:気候変動とエネルギー問題の解決に向けた社会的責任投資行動」を開催致しました。

イベントは二部構成で行われ、第一部では海外および国内の化石燃料取引やエネルギー投融資について三名がプレゼンテーションを行い、第二部では新聞記者、シンクタンク研究員、生協職員などの多様なゲスト・スピーカーがパネル・ディスカッションを展開しました。

この記事では、スピーカーの話を聞く中で、私が興味をひかれたことを中心にイベントを振り返ります。

まず主催団体である350.org Japan代表の古野と、350.org Japanのサポーターを公言してはばからない「ガイア・イニシアティブ」の野中ともよさんが挨拶に立ちました。特に野中さんは、私たちが気候変動に取り組む上での障害や背景を解りやすくお話して頂きました。豊富な経験に裏打ちされた情熱的なお話で、私たちも納得感を持って聴くことが出来ました。


世界のトレンドはどうなっているのか? ――国際的に進む脱炭素化と日本の現状――

まずはじめにオーストラリアの調査機関のジュリアン・ヴィンセント氏が、世界およびオーストラリアの化石燃料取引や投融資に関するプレゼンテーションを行いました。面白いと思ったのは、それまで右肩上がりだった世界の石炭輸入量が、2014に初めて前年比で減少に転じ、その後も減少しているという事実です。これは世界が石炭から脱却し始めている兆しと言えます。

また、ヴィンセント氏がCEOを務めるMarket Forcesのwebサイトでは、日本企業のプロジェクトがオーストラリアや地球の環境を壊している現実が指摘されています。(リンクはこちら特に国際石油開発帝石(INPEX)や三大ガス会社、みずほ銀行(どこも就職活動生に人気!)などが携わった「イクシスLNGプロジェクト」は、名だたる日本企業が参加しています。

続いて「 特定非営利活動法人A SEED JAPAN」の 西島香織様より、海外の金融機関のダイベストメントの方針について報告頂きました。西島様のプレゼンテーションによれば、海外の金融機関の中には、石炭火力発電所への投融資からのダイベストメントのみならず、石炭の採掘プロジェクトからダイベストメントに踏み切る会社も既に出てきています。

日本の総合商社なども、海外で石炭採掘プロジェクトを行っています。350.orgや海外の研究機関は、このような化石燃料プロジェクトは、気候変動規制などによって無駄な投資に終わるリスク資産(「座礁資産(stranded assets)」と呼ばれています)であると指摘しています。総合商社「三井物産」のグループ会社で、石炭採掘プロジェクトを行っている会社のwebサイト(英語のみ)

海外の金融機関も、化石燃料開発プロジェクトが、長期的に見ればリスクの大きい投資であるという認識を持つようになった結果、ダイベストメントを決断するに至ったと考えられます。

第一部の最後に、主催団体350.org Japan代表の古野より、日本の民間金融機関の化石燃料および原発関連企業への投融資状況をまとめた報告書について発表させて頂きました。古野は改めてレポートの要約を行い、以下の四点を指摘しました。

・日本の金融機関は、化石燃料・原発関連企業へ巨額の投融資を行っている。

・このまま化石燃料への支援を続ければ、昨年のパリ協定の目標達成は困難になる。

・このまま原発関連への投資を続ければ、再生可能エネルギーへの移行を妨げる。

・化石燃料・原発関連企業への投融資が確認されなかった金融機関が、47社あった。

レポート本文は次のサイトよりご覧になれます:350.org/ja/my-bank-my-future-ja/


全てはリテラシーの問題?情報発信の必要性

パネル・ディスカッションで多くのゲスト・スピーカーの方が問題視していたのは、日本人のお金に対するリテラシーの低さでした。例えば企業に入り社会人となった人は、保険会社の人から(旧態依然とした高度成長期のままの)ライフ・プランを提示され、唯々諾々と保険に加入してしまうそうです。また、皆さんも我が身を振り返ればそうかもしれませんが、預金の預け先を決める時に「勤務先から指定されているから」「便利だから」という理由で深く考えずに決めてしまっている場合も多いのではないでしょうか。

あるゲスト・スピーカーは消費者が、「公正な投融資方針」というニーズを示さないから、金融機関も動かない、と指摘していました。金融機関も営利企業ですから、顧客の要望があれば検討せざるを得ません。ただしそのためには顧客である私たち一人一人がリテラシーを身につけ行動をとる必要があります。そういった情報発信も、350.org Japanが強化していきたい分野です。


結局一人の市民に出来ることって何?

それでは、より公正な投融資を促すために、一人の市民に出来ることは何でしょうか。

例えば預金している銀行や契約している保険会社(学生であれば、自分の大学)に、現状の投融資方針を質問してみることが挙げられるでしょう。ドキュメンタリィ映画監督の鎌中ひとみさんは、みずほ銀行の担当者にクラスター爆弾製造企業への融資があったことを指摘し、口座を他の金融機関に移したそうです。

私も自分が所属する早稲田大学に、化石燃料関連企業への投資があるかどうか聞いてみましたが、回答はもらえませんでした。しかしこれはこれで現状を知るための大きな一歩です。こういったはたらきかけの積み重ねが、より公正で民主的な投融資方針をつくるのだと思います。

私たちには「消費者」として銀行に預金したり、株式に投資をするというなどの金融行動に対する個々の自由と権利が憲法で保障されています。しかしながら、私たちがしっかりと世界のお金の流れを意識し、ものを言わなければ、その自由と権利は政府や金融資本によって私たちが意図せぬ方向で濫用されてしまう可能性があります。本イベントで話を聴く中で、そのような危機感が芽生えました。


My Bank My Futureキャンペーンの紹介

350.org Japanでは、今後My Bank My Future(私の銀行、私の未来)というキャンペーンを始める予定です。

このキャンペーンは、消費者により良い選択肢を提供するため、化石燃料・原発関連投融資を行っていない金融機関を特定し消費者に紹介します。そして化石燃料・原発関連投融資を行っている金融機関からのダイベストメント(この場合、口座の変更、保険の契約見直しなどを個人が行うことを指します)を促していきます。

また消費者が連帯して働きかけることで、 自然エネルギーを優先する投融資方針を金融機関に取り入れてもらうことも、このキャンペーンの目的の一つです。

このような一人でも出来る気候変動対策を、350.org Japanは提案していきます。誰でも参加出来るオープンなキャンペーンなので、ご関心があれば[email protected]宛にご連絡頂ければ幸いです。