インターンの高橋淳志です。
8月27日から8月29日まで韓国で行われたEACLC(East Asia Climate Leaders Camp:東アジア気候変動リーダーズキャンプ)に参加してきました。
キャンプは職場である国際環境NPO「350.org」の主催で行われ、日本・韓国・台湾・香港・中国・フィリピン・インドネシア・ベトナムの8カ国・地域の350.orgメンバーや環境保護団体スタッフなどが集まりました。(写真はプレゼンを行う韓国チームです。)
テーマは「ダイベストメント+気候変動との闘い最前線」で、参加者は火力発電所の被害について知るとともにダイベストメント(化石燃料関連会社からの投資撤退)を自分の国でいかに広めていくか、知り、考える機会を得ました。
ダイベストメントは欧米を中心に進んでおり、東アジアでは目立った動きがありません。中国やベトナムのように権威主義体制が、市民団体の活動を制限している例もあります。そのような制約の中で、どのような協力が出来るか、熱を帯びた議論が行われました。
まず初日に行われたのは、参加者が今の仕事につくきっかけとなった出来ごとについて語り合うセッションでした。私は台湾の環境NPOの職員と話しました。350.orgは主に気候変動の原因となる温室効果ガスの排出を根拠にして、石炭火力発電所を問題視しています。しかし彼女が働いている団体は、大気汚染を問題視して活動しているとのことでした。彼女たちが持ってきた資料によれば、台湾中部にある台中市には韓国資本が開発した、570万kw(キロワット)にも及ぶ世界最大の火力発電所群(10基の石炭火力発電所と4基の石油火力発電所)が立地しているといいます。
これまで350.org Japanのキャンペーンでは、気候変動の問題を中心に据えてきました。しかし今後は大気汚染に焦点を当てて、立地地域住民の健康被害に焦点を当てるキャンペーンを行う必要もあるかもしれないと彼女の話を聴いて感じました。
またベトナムからの参加者が、日本の政府機関であるJBIC(国際協力銀行)やJICA(国際協力機構)の石炭支援を問題視していることも、大きな衝撃を私に与えました。環境NPOの業界に入り、日本の企業や政府機関が石炭事業を海外で行っていることを知ってはいました。しかし実際に現地人が反発している様子を聞くと、一日本人として責任を感じざるを得ませんでした。
日本企業や日本政府は、日本の高効率の石炭火力発電技術は、世界の大気汚染や気候変動を軽減するのに資すると考えています。しかし途上国企業や政府が石炭火力発電所誘致を望み、現地の住民が反発しているという民意がねじれた状況で、日本企業や政府が石炭事業を進めるべきとは、とても思えませんでした。
2日目はフィールド・トリップに行きました。キャンプが行われた忠清南道(チュンチョンナムド:日本でいう都道府県)には、韓国の石炭火力発電所の約半分が立地しています。
(Danjing石炭火力発電所の遠景)
地元で反対運動に行っている方によれば、石炭火力発電所からの排出物によって、ガンなどの形で健康被害が出ているそうです。私たちはダンジン石炭火力発電所と、その新規立地計画予定を見学しました。近くには家族連れが海水浴を楽しむビーチがあり、とても環境汚染が起きている場所とは思えませんでした。
日本では94基の石炭火力発電所が現存し、48基の新規石炭火力発電所建設計画があります。電力生産は、石炭の他にも天然ガスや原子力、再生可能エネルギーなどの多様な代替手段があります。日本にこんなに石炭火力発電所は必要なのか、改めて考えさせられるフィールド・トリップとなりました。
(「汚い石炭を止めろ」という意味のバナーを掲げる参加者)
3日目は他の地域とどんな協力が出来るか参加者が話し合いました。例えば気候変動や大気汚染は、被害に脆弱な人々が多い、途上国においてより悪影響が大きくなります。途上国で日本企業がプロジェクトを行っている場合、途上国と日本の市民団体が共同でキャンペーンを行うことが出来るという提案がなされました。その話を聞いて、私たち先進国の環境NPOには、気候変動や大気汚染の被害を受けている人々の声を、大量排出者が多くいる先進国に届ける役割があると思うに至りました。
(プレゼンを行う中国チーム)
また日本人は石炭火力発電所がもたらす気候変動や大気汚染の被害をよく知らないので、途上国の人々の被害を共有することは日本人の啓発につながるというアイディアを得ることが出来ました。
私が今回のキャンプで感じた一番の教訓は、「難しいからこそやる価値がある」ということです。石炭火力発電所のプロジェクトを止めたり、金融機関に「パリ合意」と整合的な投融資方針を取り入れてもらうことは簡単ではありません。しかし簡単ではないからこそ、誰かが本気で取り組み、気候変動や大気汚染の被害に苦しむ人々を減らしていく必要があります。そう思えたことが、このキャンプに参加して得た一番の収穫だと思います。
今回のつながりを一度きりで終わらせないために、今後は東アジアの350.orgチームと他の環境保護団体が共同でキャンペーンを展開するためのプラットフォームづくりへとフェーズが移行していきます。このプログラムに参加したことによって、同じ問題に取り組んでいる仲間が東アジア中にいることを確認出来、私たちの取り組みに対する無言の後押しを受けたような気がしました。