2018年4月20日 

350.org Japan 代表 古野真

 

「パリ協定」、「2度目標」、「脱炭素化」。

これらの言葉は、もはや気候変動の専門用語ではなくビジネスの常識になりつつある。

 

先週東京都内で、環境、社会やガバナンスに配慮した投資「ESG」の最前線を探るいくつかの国際会議が行われた。それらの会議で重要課題として取り上げらたのが、気候変動問題に対して日本企業がどのように向き合うべきか、という問いであった。

 

私も、東京証券取引所で開催された「Responsible Investor(責任投資家)アジア・ジャパン 2018」、そして世界の投資家グループと国連責任投資原則(PRI)が企業の気候変動対策を促す「Climate Action 100+」の日本ローンチイベントに参加した。

 

 

その中で世界の投資家、年金ファンド、アナリストや保険会社の責任者が繰り返し取り上げたキーワードは「パリ協定」「2度目標」「脱炭素化」であった。

 

グローバル・マネーが気候変動問題に注目するわけ

根本的な出発点はかなりシンプルなものである。

 

大量の温室効果ガスを排出する燃料源である石炭、石油や天然ガスに依存してきた経済活動がこのまま進めば、地球温暖化が加速し、気候変動に伴う壊滅的なリスク(海面上昇、異常気象、猛暑日の増加、干ばつ、洪水など)が世界経済に重大なダメージを与えることが予測されている。

 

2015年12月に196ヵ国が合意した「パリ協定」で国際社会が決断したのは、 気候変動による悪影響が危険なレベルを越えないために、産業革命以降の世界の気温上昇を1.5~2度未満に抑えること。この「2度目標」にむけて、できる限り早く化石燃料依存から脱却し、自然エネルギーを急速に拡大させ、経済の「脱炭素化」を目指すと世界の国々が宣言したのである。

 

気候変動に伴うリスク低減、そして 「パリ協定」の目標達成に向けて、世界の多くの政府機関、金融機関、自治体、企業や一般市民が、ビジネスの常識や価値観を変え始めている。世界の投資家がその新しい未来の実現を「経済的機会」として受け取っていることが今回の会議でより一層明らかになった。

 

気候変動が「企業価値」 に与える影響

Responsible InvestorアジアとClimate Action 100+のパネルで複数の投資家が「企業価値」を測る時に、気候変動に配慮した事業戦略を立てているのか?温室効果ガスの削減目標を掲げているのか?気候変動に伴うリスクに対する適応策を考えているのか?などの問いに答えられるかを基準にしていると語った。

 

これらに答えられた企業は、社会的責任を果たし、将来のリスクと機会を把握したうえで事業運営を行っているとして評価されるという。回答できない企業は投資対象から除外されるか、あるいは企業の信用状態に関する評価を行う格付け会社に低く評価されるおそれがあると指摘された。

 

世界の投資家、年金ファンド、保険会社、そして一般市民が投資先・取引先企業の選択規準を「気候変動への配慮」の観点から見直していることは、世界のビジネスへの社会的要請に変化が訪れていることを示している。

 

そもそも2度C目標達成に何が必要?

最新の科学的知見(*1)によると、世界の平均気温の上昇を1.5−2度Cに抑える目標を達成する上で許容されるCO2の排出総量は、全世界(2017年時点)でおよそ150~1050ギガトン(*2)が残されている。現在の年間排出量(約41ギガトン)で計算すれば、1.5℃のレベルを満たすまで3年、2℃のレベルだと25年ほどで許容CO2排出量を使用尽くし、ゼロになってしまう。

 

つまり、1.5-2℃未満に温暖化を防止した場合、人間が利用しているエネルギーで最もCO2排出量の多い石炭、石油、天然ガスを含む化石燃料の大半は使用できないことになる(*3, *4)

 

 

「石炭火力発電ゼロへ」

2度C目標達成の鍵となるのは、最大の排出源である石炭発電所は新たに増やさないことだと国連環境計画が2017年の10月に発表した調査報告書(*5)で明らかにした。それに加え、天然ガスに比べ2倍ほどの排出量を生み出す石炭火力発電の新たな開発を禁止するのに限らず、既存の火力発電所の早期閉鎖が適切であると指摘された。「脱石炭」の動きが強まる中、イギリス、カナダやフランスを含む26ヵ国が「脱石炭連盟」を立ち上げ、「石炭火力発電所の段階的廃止」を目指す方針を掲げている。

 

科学的知見に基づき、世界の投資家・年金基金・保険会社や銀行が石炭関連企業からの投資撤退「ダイベストメント」を続々と発表している。

 

保険業では世界最大級のフランスのAXA(*6)、スイスのチューリッヒやイギリスのLloyd’s (*7)など15社の大手保険会社は石炭関連企業からの投資撤退を発表している(*8)

 

銀行業ではオランダのINGやフランスのBNPパリバなどの世界的銀行は気候変動防止に向けて、新たな石炭火力発電事業や採掘事業への投融資を禁止している。 石炭への投融資を制限している銀行は30社ほどある。

 

石炭だけにとどまらず、石油と天然ガス会社から資金を引き揚げる動きが加速してる。2018年に入ってからは、ニューヨーク市とデンマークの年金基金PKAが化石燃料関連企業からのダイベストメントを発表した。

 

石炭を始めとする時代遅れのエネルギーへのお金の流れを止め 、持続可能な未来を構築する自然エネルギーへの投融資を優先する動きは金融業界では世界の潮流になりつつあり、「脱炭素化」への道筋が具体化している。

 

日本における「2度目標」達成にむけて

世界の流れに後押しされ、日本企業の気候変動対策も近年大きく進展している。

 

事業活動において使用する電力を100%再生可能エネルギーにすると発表する企業イニシアティブ「RE100」には日本企業6社が加盟している(リコー、アスクル、積水ハウス、大和ハウス工業、イオン、ワタミ)。

 

また、 Science Based Targets(SBT)(科学と整合した目標設定)という、2度目標に整合した目標を設定する企業イニシアティブには、メーカーを中心に日本企業14社(*9)の「企業版2度目標」が認定されている(40社以上が目標審査中)。

 

最前線の取り組みを進めている日本企業がある一方、電力会社と銀行部門は世界の流れに逆行している。

 

石炭にしがみつく電力会社と銀行

国内で建設計画中の40基以上の新たな石炭火力発電所に関わる電力会社は世界の流れに完全に逆行し「パリ協定」に反する業務を行なっている。

 

国内外で石炭火力発電事業を進める企業に対し巨額の貸出を行う日本の3大金融グループは気候変動問題解決に消極的で、金融業界の脱炭素化の波に乗り遅れている。

 

 

ドイツのNGOウルゲバルト(Urgewald)などがまとめた最新の報告書「銀行vs.パリ協定」(*10)により、2014年1月~2017年9月の間、新たに石炭火力発電所の建設計画を進めている大手企業120社への融資額において、みずほフィナンシャルグループは世界で1位(115.25億米ドル・約1兆2千億円)、三菱UFJフィナンシャル・グループ(101.89億米ドル・約1兆1千億円)は2位、三井住友フィナンシャルグループ(35.37億米ドル・約3750億円)は5位であることが判明しました。さらに、世界主要銀行の気候変動対応を評価した報告書『化石燃料ファイナンス成績表2018』(*11)では、メガバンク3社は石炭火力および採掘事業に対する方針においてはほぼ最下位の評価を受けている

 

世界が「脱炭素化」を目指す中、邦銀が 気候変動を最も加速させる石炭火力発電所に巨額の貸出を行っていることは、世界的にも批判されるようになっている。

 

石炭火力発電から「ダイベスト」(撤退)しよう!

 

地球の平均気温を2度未満に抑えるために、邦銀は大きな責任を負っている。

 

気候変動問題だけでなく3大メガバンクが積極的に融資を続けている石炭火力事業計画には、土地接収などの人権侵害が報告されているインドネシアのバタン石炭火力発電所やチレボン石炭火力発電所、地域産業へ大きな被害を与えているベトナムのビンタンやブンアン石炭火力発電所をはじめとする、社会的問題が明らかになっている個別案件が多い。

 

こうした大手銀行による、将来世代の生活を犠牲にする石炭火力発電や採掘事業への融資は、直ちに中止させなければならない。問題のある融資を中止にさせ、その資金をより良い未来の構築に貢献する方向に向かわせるために、私たち消費者の行動が必要である。


 

3大メガバンクにあなたの声を

預金者が一丸となり経営者に声を届けることで、大手銀行の行動を変えることができるはずだ。きれいな青空を守るために、3大金融グループ(三菱UFJ、三井住友、みずほ)のCEOたちに対して石炭火力発電への新規融資停止を求める「10,000人の署名アクション」を実施中。社会や環境に配慮した銀行業務を求めるために、署名にぜひご参加ください。

署名はこちらから

 


(*1) https://www.nature.com/news/three-years-to-safeguard-our-climate-1.22201?error=cookies_not_supported&code=74d90e53-b58a-4b6e-86da-601544d6abf4

(*2) ギガトンは10億トン

(*3) http://www.bbc.com/news/science-environment-30709211

(*4) http://priceofoil.org/2016/09/22/the-skys-limit-report/

(*5) https://www.unenvironment.org/resources/emissions-gap-report

(*6) https://sustainablejapan.jp/2017/12/15/axa-coal-divestment/29654

(*7) http://rief-jp.org/ct6/76179

(*8) https://www.theguardian.com/business/2018/jan/21/lloyds-of-london-to-divest-from-coal-over-climate-change

(*9) 第一三共、電通、富士フイルム、富士通、川崎汽船、キリン、コマツ、コニカミノルタ、リクシル、ナブテスコ、パナソニック、ソニー、リコー、戸田建設

(*10) https://www.banktrack.org/coaldevelopers/

(*11) https://www.ran.org/bankingonclimatechange2018