フェレイドン・シオンシャンシ(Fereidoon Sionshansi)著
(2016年10月7日 のエナジーポスト掲載記事より [許可を得て転載 ])
世界最大の民間資産運用会社ブラックロックは、ポートフォリオ(投資家が保有する金融商品の一覧)の重要なリスク要因に「気候変動」を加え、リスク計算することを表明。ニュースレター「Energy Informer」出版者兼代表フェレイドン・シオンシャンシ氏が伝えます。 シオンシャン氏によると、この決定はエネルギー部門全体に大きな影響を与えるようです。
ブラックロックは、並大抵の資産運用会社ではありません。 4.9兆米ドル(500兆円超)もの資産を誇る、世界最大の民間資産運用会社です。 必然的に、同社の主張はもちろん、その企業行動は、とても重要な意味を持つことになります。 そのブラックロック社が2016年9月に発表したレポートは、少し控えめに言ったとしても、これまでのグローバル投資とリスク管理のあり方を変える転機となるかもしれません。 レポートには、こう明記されています。「もはや投資家は、気候変動を無視するわけにはいきません。 その科学的根拠について懐疑的な人もいるかもしれませんが、気候関連の規制や技術革新に向けた機運はますます高まり、誰もがその影響を受けることになるでしょう。」
(出典:http://energypost.eu/climate-change-becomes-prime-investment-driver/)
その先も引用します。「当社ブラックロックの精鋭な投資専門スタッフの知見に基づき、投資家は気候リスクをどう軽減できるか、またこれをチャンスとして生かせるのか、あるいはプラスの影響となり得るのか詳述します。 当社では、投資利益を最大化させるという従来の目標について妥協せずとも、気候に配慮した投資は可能である、という結論に至りました。 また今後は、気候をめぐる議論において検討されている手段も見つめていきます。そのひとつとして、コスト効率の良い排出量削減方法である炭素価格制度の導入が挙げられます。」
レポートは、こう締めくくられています。 「当社は、次の結論に至りました。 全ての投資家は、気候変動への認識を見極めた投資決定をすべきです。」
あまりに単刀直入だと思われるかもしれません。
高コストな天候
1980年から2015年までの米国で発生した10億ドル規模の災害
(出典:http://energypost.eu/climate-change-becomes-prime-investment-driver/)
要するに、ブラックロックは「気候変動を明確なリスク要因として、投資ポートフォリオのリスク計算をする」と言っているのです。 これは、まさに転機となる一大事です。
暴風雨などの気象災害がますます勢力を増し、多発していることなどを受け、投資家や保険業界も、気温上昇による影響を感じ始めています。
そこで、ブラックロックは、気候変動をめぐる新たなリスク管理方針として「温室効果ガス排出量を企業の売上高率として計算すること、気温上昇が企業収益にどの程度打撃となるのか予測すること、また廃棄物をほとんど出さずに生み出した売上高を計算すること」を掲げています。
つまり、今後ブラックロックは、投資対象となる全ての企業について、「どの程度の気候リスクにさらされているか」、「気候変動に影響されない企業体制が整っているか」、また「気候変動で得をするかどうか」といったことを検討していくことになります。 エネルギー部門の関係者ならば、それが何を意味するのか分かるはずです。でも実際、採取、加工、製造、輸送、消費の対象のほとんど全てにエネルギーが供給されていることを鑑みれば、経済の全部門の関係者にとって、その意味は明白なはずです。
再エネの台頭
(出典:http://energypost.eu/climate-change-becomes-prime-investment-driver/)
長期的な投資リスクを抱える企業にとって、炭素価格の設定は、すでに現実のものとなっていますが、その導入はやがて全企業および組織の義務となるでしょう。 また、企業が炭素価格制度を導入するか否かに関わらず、ブラックロックをはじめとする投資業界は、おそらくこれを導入することになります。
(出典:http://energypost.eu/climate-change-becomes-prime-investment-driver/)
現段階では、炭素価格についての一致した意見は形成されておらず、個々の企業が独自にあらゆる数字を算出している状態です。 もう少し時間がたてば、適切な価格がだいたいどのくらいか、もっとはっきりするでしょう。 こうしたことを背景に、投資業界は今後、炭素排出や気候変動が投資のリスク要因としてどう組み込まれていくのか、より明確な情報や一貫性を追求していくことになります。
キャップ・アンド・トレード(国内排出量取引制度)や炭素取引がすでに行われている分野では、これらの情報が他の分野よりも早い段階で明確になるでしょう。
ブラックロックは、投資家を怖がらせて遠ざけようなどとは少しも考えていません。 逆に「様子をうかがいながら気候リスクを説明するだけの時代は終わった」と区切りをつけたのです。 投資家が何よりも求めているのは、明確な情報と投資の安全、そして透明性の確保です。 そしてもし、ブラックロックなどのメジャーな資産運用会社がこれらを提供できるのであれば、そのサービスを求める投資家は必ずいるはずです。科学だけでなく、さまざまな産業や企業にリスクを割り当てる技術も、時間をかけて進化していくのですから。
炭素価格制度
(出典:http://energypost.eu/climate-change-becomes-prime-investment-driver/)
すでに、多数の組織が環境履歴や二酸化炭素排出量に基づいた企業格付けサービスを始めています。 そのひとつに、コーポレート・ナイツ社と環境NPOアズ・ユー・ソウが、自然ネルギーからの収入をベースに作成した企業リスト「カーボン・クリーンな企業200社」があります。それによると、この10年間あらゆる市場において、温室効果ガス排出量の少ない、環境に優しい企業が業績を上げているようです。 もしそれが本当なら、温室効果ガス汚染をまき散らす企業ではなく、気候変動が価格に影響するリスクの少ないクリーンな企業に資金や融資を移すよう、投資家を説得、またそれに基づいた資産管理を促すこともできます。
(出典:http://energypost.eu/climate-change-becomes-prime-investment-driver/)
2016年8月中旬に発表された調査には、こう記されています。「ご存知かもしれませんが、ご自分の価値に見合った投資行動は、心情面でも経済面でも報われることになります。 でもそれだけでなく、特定の自然エネルギーへの投資が、19.4%を上回る年換算利回りを生むこともご存知でしたか? 「カーボン・クリーンな企業200社」に投資すれば、利益を上げながら、自然エネルギーの未来を築くことが可能です。.”
「カーボン・クリーンな企業200社」は、自然エネルギーからの収入総額に基づいて、世界有数の上場企業を格付けしたものです。 同様の情報を提供するサービスは、他にも多数あります。 また調査には、こう記載されています。「ポートフォリオのリスク軽減のため、あるいは道徳的理由から化石燃料関連株を手放すのなら、カーボン・クリーンな企業200社は、クリーンな再投資に向けた指南書となるでしょう。」
温室効果ガス大量排出型ビジネスに対してかかり始めた圧力は、今後いっそう高まっていくでしょう。 炭素や気候リスクを無視することは、もはや選択肢にはありません。