今年初め、世界銀行総裁が次のように述べました。
「もしアジアが今後も石炭火力発電所を稼働し続けるなら、人類は滅亡する運命にある。 これは、人類と地球に取り返しのつかない惨事を招くことになるだろう。」
アジアの主要経済国における「石炭政策の変化の兆候」について述べた、ジム・ヤン・キムの警鐘を、既に耳にしたことがある人もいるかもしれません。
中国
中国は石炭火力発電から撤退することを、はっきりと文書で示しました。 ものすごい勢いで、石炭火力発電所の建設が続いていましたが、そのほとんどが稼働しておらず、また稼働しているとしても発電量は低いままになっています。 また、エネルギー部門で大幅な設備過剰となっています。
中国政府はこれまでに、以下のような対策を取っています。
- 新しい石炭鉱山については3年間の猶予を設ける
- 13省に対して石炭火力発電所の新設承認を停止し、15省に対して承認済みの発電所建設を中止するよう命令
- 中国本土31省のうち28省に対し、石炭発電所の新設承認をすべて停止するよう命令。これを受けて、発電所の90%が承認要求を中止
中国は世界の石炭消費の半分を占めている、重要な鍵を握る国なのです。 中国政府による一連の対策は、国内の深刻な大気汚染に対する国民の抗議が大きく影響しています。
しかし問題は汚染だけではありません。 中国政府は、業界に対してエネルギーや水の使用量から土地の使い方に到るまで、あらゆる面において自然環境への影響を制限する「レッドライン」を設定しています。
現在では、一部の近隣諸国が自国の石炭発電所の計画を見直しているようです。
韓国
韓国は先週、大気汚染悪化の対策として、電力開発計画から2カ所の石炭発電所を除外し、また一部の古くなった石炭火力発電所の閉鎖を検討していると発表しました。
韓国は、国内の大気汚染の責任のほとんどが中国にあるとして非難していますが、グリーンピースの調査によると、韓国国内のスモッグの大半が国内由来のもので、ほとんどがソウル周辺の石炭発電所が原因とされています。
発表された発電所閉鎖案は、「石炭火力発電所4カ所の計画を破棄する」というパリ協定での約束の最上位に位置付けられています。ただし、20カ所の新規石炭火力発電所計画は、現在進行中です。
フィリピン
フィリピン新政府は、石炭火力発電所は、特に設置されたコミュニティに悪影響を及ぼすため、これ以上の設置は望んでいないと発表しました。
この新政府の決断は、石炭火力発電所建設を拒否するセブ市議会の投票を受けて下されました。また、今年の初めに発表されたレポートでは、大気汚染による健康被害が大きく取り上げられています。.
アーネスト・ペルニア国家経済開発庁長官は「我が国は、再生可能エネルギーへと徐々に移行する予定である」と発言し、石炭関連の大企業であるサン・ミゲル・コーポレーションやマニラ・エレクトリック・カンパニーに警告を発しました。
フィリピン国民は、気候変動による極端な天候が及ぼす影響以上に、大気汚染に苦しんでいるのです。 2013年11月のハイエン台風では6,000人以上が亡くなりました。
ベトナム
国内で、天然ガスや風力、太陽光を推進するために、石炭火力発電所のプロジェクトをさらに削減すると、ベトナムが国の電力計画の変更を発表しました。その発表はパリ協定の署名直後の、正に署名のインクがほとんど乾いていない、ほぼ同時期に行われました。
実は、ベトナムはアジア地域のどの国よりも大規模な石炭使用を計画していた国で、石炭発電所の新設を最大70カ所も予定していたのです。
2カ月後、変更された計画が明らかになリ、予定されていた70カ所の新設計画のうち一部のみ実施されることになりました。
ベトナムは石炭発電所23ギガワット分を削減(オーストラリアの石炭発電量に相当)しましたが、その一方で、2030年までに45ギガワットの追加を進めています。
世界銀行に「我々の運命は絶望的だ」とコメントさせたのは、ベトナムの石炭計画だったのです。.
インド
石炭産業は、インドという国の成長に望みを託していまです。
未だ約3億人の人々が電気のない暮らしをしているインドでは、「2022年までに24時間電気を使えるようにする」ことを、国の目標に据えています。
その主要な電源が石炭発電所であるため、今後大幅な増加が予想されています。
一方で、既存の発電所の稼働が十分ではないため、今後3年間、新設する必要はないとインド政府は発表しています。
インドの石炭火力発電の足を引っ張っているのは、不十分な稼働だけではありません。
深刻な干ばつや水不足により、一部の発電所が閉鎖に追い込まれているのです。そこでインド政府は発電所に対し、下水を代わりに使用するよう奨励しており、この方針転換により、発電所が下水処理所の近くに設置されていますが、それでも今後膨大な投資が必要と予想されています。
再生可能エネルギーと比べものにならないくらい、法外なコストがかかりそうです。
全体像
今回のアジア各国の動きに、日本とインドネシアが入っていないことに気づかれたかもしれません。
この2カ国は、アジアだけでなく世界中の主要国の流れに逆行し続けています。石炭発電所が深刻な汚染を引き起こしているにも関わらず、石炭発電所新設計画を推進しているのです。.
しかし日本・インドネシアの動きは、世界中で起こっている脱石炭発電の動きを変えることはできません。
気候変動を制限するための地球規模の闘いを左右する、石炭発電所の計画が存在する大陸アジアでは、石炭の使用を中止しようとしています。
中国が180度の方針転換をしたことで、アジア地域全体で石炭発電所を再考する機運が高まっています。おそらく、その方針転換に時間はかからないでしょう。