ブーツの形をしたイタリアの「かかと」にあたる南部の街、サレントは「アドリア海横断パイプライン(TAP)」建設を阻止するため、最前線で闘っています。建設が完了した場合、TAPは南ガス回廊に接続され、2020年以降、年間数十億立方メートルのガスをアゼルバイジャンからイタリアに輸送することになります。
パイプラインの一部はプーリア州の美しい海辺の街サン・フォカ(San Foca)にも建設される予定です。地元の人々は天然ガス受入基地を含むパイプライン設備が地域の景観や海岸線、青く透き通る海にダメージを与えるのではないかと危惧しています。
プロジェクトが気候に及ぼす影響、そして地元の反対にもかかわらず、イタリア政府と欧州委員会は建設を強行するつもりで動いています。
地元住民らは警察による暴力や重い罰金という脅しに直面しながらも、パイプライン建設阻止を目指し、平和的でパワフルな反対運動を続けています。
TAP建設は目先のことしか考えない欧州の政治家の姿勢を明確に表す良い例です。欧州連合(EU)とその加盟国はTAPやノルド・ストリームIIをはじめたとした巨大パイプラインを新設し、ガスインフラの大規模拡張計画を進めています。しかし既存のガス埋蔵量だけでも残りの「炭素予算」を一気に使い果たす上、既存のインフラは未使用のまま放置されているのが現状です。
TAPプロジェクトの費用は欧州で開発中の化石燃料事業としてはもっとも高額の450億ユーロです。建設予定ルート上で大気中にメタンが漏れる可能性を考慮すれば、天然ガスがもたらす気候への影響は少なくとも石炭と同レベルで最悪なはずです。
地中海地域の気温は産業革命前と比べ、すでに1.3℃上昇し、それが原因で気候は以前よりも乾燥し、今夏地中海各地で猛威を振るった山火事のリスクを高めています。
科学者たちはこの地域の平均気温が1.5℃の閾値に上昇する前に止まらなければ、南ヨーロッパと北アフリカの大部分は恒久的に砂漠と化し、危険な熱波が多発し、それはまた食糧生産に劇的な被害をもたらすことになると警告しています。
TAPをはじめとした化石燃料プロジェクトをこのまま進め、気候変動を助長させれば、数千年にわたりサレント地域を作ってきたオリーブ畑やブドウ畑はあと2、3世代で消滅してしまうかもしれません。
「これは欧州全域の問題です」とパイプライン反対運動を率いる地元住民のサビーナ・ギース氏は言っています。「このパイプラインも他のどのパイプラインも必要ありません。わたしたち欧州市民は一致団結して闘うべきです。」
もう何年もの間、TAPプロジェクトについて懸念を示してきた地元住民たちですが、2018年3月の建設業者と住民の対立はそれをいっそう決定的なものにしました。自治体の正式な許可無く、パイプライン建設会社がメレンドゥーニョ(Melendugno)という田舎町周辺の土地にやってきて、何百本もの歴史あるオリーブの木を撤去したのです。
オリーブの木は地域経済の支柱であり、地元住民の生活にとって欠かせない存在です。樹齢数百年(あるいは数千年)のこれらの木々は地元の人々にとって大切な文化的価値があります。
現地には地元やイタリア各地から大勢の人々が集まり、オリーブの木の撤去とパイプライン建設に対し非暴力の抵抗を続けています。自らオリーブの木によじ登り、体を張って木を守ろうとする者もいれば、車両の進入を防ぐため、石を積み重ねバリケードを築く者もいます。そんな彼らはたびたびフル装備の機動隊の反撃にあってきました。
7月初め、警察はムッソリーニ時代の治安維持法を制定、この小さな街を事実上封鎖しました。建設業者がオリーブの木々を撤去できるよう、街を出入りする全ての道路を遮断したのです。 これに抵抗した人々の中にはメレドゥーニョの副町長もいたのですが、警察はそんな彼らを暴力的に抑圧しました。
サン・フォカおよびメレドゥーニョでは今なお緊張が続いています。現在警察は抵抗運動の参加者を恫喝し黙らせようとしているようです。警察は写真や動画を通じ個人を突き止め、特定された人の元には平和的な抗議デモに参加したことや道路にバリケードを設置したことを理由に2,500~10,000ユーロの罰金通知が届き始めています。
だが抵抗信念は緩むことなく、現地に集まる人々の数は増え続けるばかりです。パイプライン建設を完全撤回させるという地元組織である反TAP委員会の意志は固く、彼らはこのプロジェクトが不必要かつ非民主的であり、地域経済にも環境にも莫大な損害をもたらすことになると確信しているのです。「Né qui né altrove(TAPなんて、ここにもどこにも必要ない)」というのが彼らのメッセージです。
地球の気温上昇を1.5℃未満に抑えられない可能性が急激に高まっていまり、一刻も早く化石燃料産業への支援を断ち切る必要性があります。