今年の8月22-26日、350.org はベトナムのハロン湾でEACLC「東アジア気候リーダーキャンプ」を開催しました。ベトナム、フィリピン、インドネシア、台湾、そして日本など東アジアの国々より30人の若者が集まり、気候変動防止活動をより効果的に進める方法を学びました。こちらのブログ記事は、キャンプの中で、ベトナムのクアンニン省の炭鉱を訪問した際の感想を参加者がまとめたものです。
ミン・ビンさん (25)
ホモ・サピエンスと呼ばれる種によって破壊された荘厳な景色を目にしたとき、肌が怒りでうずくのをあなたは体感したことがあるだろうか?
僕はあの感覚が大嫌いだ。
かつて壮大で奇跡的とも言えるほどの自然が無惨にも破壊された風景をインターネットを通じてワンクリックて見ることができる現代では、人々はこの感覚に麻痺している。
少なくともスマホでこのような自然破壊の写真を見ていた時、私はそう感じた。
「人間が環境を破壊している?」
「そんなこともう知ってるさ、つまらない話はやめてくれ!!」
ベトナムで環境不正義に取り組もうとすると、気が遠くなることが多い。24年間、私は苛立ちを覚えながらも、環境問題に対して具体的な取り組み起こすことを思いとどまってきた。住んでいる人の大半が自然界に関心がない文化で育ってきた自分にとって、環境保全に対する熱意を絶やさず支えることは、容易ではなかった。
だからこそ、CHANGEと350.org ベトナムよりEACLCへの参加通知メールを受け取ったとき、僕は本当に嬉しかった。
EACLCとは:東アジア気候リーダーキャンプ
開催場所:ベトナム、クアンニン省のハロン湾ーユネスコの世界自然遺産
開催時期:2015年8月
参加者:主に東アジアから、計8ヶ国の環境活動に対して熱心な人
EACLCとは、気候変動をテーマにした、炭鉱への見学もあるキャンプだ。石炭と気候変動が深く繋がっていることを、あなたは知っているだろうか?
簡単に説明するとこういう構図だ:石炭を燃やす→CO2排出→人為的な気候変動 (→地球の滅亡??)
何を隠そう、環境にとって石炭は最悪だ。
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というわけで、気付けば僕はハラムと呼ばれる炭鉱へ向かうでこぼこ道のバスの中で、携帯を使い炭坑の写真を見ていた。ハラム炭坑への訪問は、この4日間のイベントの最初のハイライトであった。
炭鉱見学の前日、キャンプのファシリテーター達は石炭採掘がクアンニン省にもたらしている影響や、彼らがベトナムでこれ以上石炭火力発電所が建設されないよう願っていること、そしてこの野心的な願いを実現するにあたりキャンプ参加者がどのような役割を担えるかについて、長い時間を費やして語ってくれた。
現実的に考えて、炭鉱を訪れた若者たちが現状を変えるために一体なにができるだろうか、とその時僕は疑問を感じていた。
しかし、ハラム炭鉱がやっと目に入った瞬間そんな疑問も吹き飛んだ。
その風景を前にして、僕は燃えるような怒りしか感じなかった。
iPhoneの画面越しに受動的に見る「バーチャル」なものと、自らの目で実際に見る「リアル」な人為的な破壊の風景は、全くもって異なる。でこぼこ道を走っていたバスの中がシーンと静まり返ったのをよく覚えている。一瞬時が止まり、遠足のようにワイワイと盛り上がっていたEACLCの参加者はみんな黙り込み、バスの車内を静寂が支配した。みんな窓側に集まり、かつては山の麓であっただろう大きな穴をただ眺めていた。
見学の付き添いで来ていた地方政府の観光課の方は、私たち参加者を単なる観光客だと思い込んでいたようで、彼女は誇らしげに、炭鉱をつくる際の爆発で出る岩や土を別の山頂に持って行き、そこに植林することで環境に配慮した炭坑業に専念している、と語った。
完璧な開拓。
自然を回復させるのは簡単。
資源採掘は持続可能!
この女性は、自分が何を言っているのか理解しているのだろうか、と私は彼女の口から出る言葉に耳を疑った。しかし、きっと彼女自身、ずっとこの情報しか聞かされてこなかったのだろう。人は環境の産物と言うが、周りの影響でこうした思い込みが生まれてしまうことも、仕方がないことだろう。
運転手がバスを停止させて、私たちはみんな心に重さを感じつつバスを降りた。
炭鉱に興味を持ったニセ環境客を装いながらおどおどと現場に入り、見学者用の炭鉱労働者の作業着に似せたものを着させられ、ツアーが始まった。政府職員は炭鉱労働者用の素晴らしいシャワールームや食堂、炭鉱内の万全の安全対策システム、完璧な健康対策、採掘のための最新鋭のシステムなどを誇らしげな様子で紹介した。
彼らが発信しようとしているメッセージはとても前向きなものだ。これらを見た限りだと、炭鉱労働者にとっては万事うまくいっているのだろうと思えた。しかし、結局労働者個人の意見を聞くことはできないまま見学は終わってしまった。唯一できたのが、小綺麗な食堂で労働者にお礼の品を渡しながら行った、笑顔に満ちた写真撮影だ。それを最後に、私たちはおいそれと次のバンダン炭鉱へと向かわされた。
最初に感じた怒りは残っていたが、帰りのバスが採掘場の大きな穴の横を通ったとき、その感情はどことなく静まった。
もし全ての炭鉱労働者があのように幸せに、素晴らしい設備に恵まれた採掘場で働いているのであれば、炭鉱を閉鎖へと追いやり、何千もの貧しい人から職を取り上げることになる石炭採掘産業への反対運動を行うのことは現実的なのだろうか。
皮肉にも、バンダン炭鉱がこの問いの一部に答えてくれた。
バンダン炭鉱では、幸運なことに到着した時がちょうど炭鉱労働者のシフト交代と重なった。8時間近く地下で働いていた労働者たちが地下へと通じる下り坂の穴から、蟻が巣から這い出るように、続々と出てきていた。
ハラム炭鉱で会った労働者との明確な違いは驚くほどのものだった。バンダン炭鉱の労働者たちは全身すすまみれで、口と目を除いて完全に真っ黒だった。
このチャンスを逃すまいと私たち参加者は瞬時にいくつかのグループに分かれ労働者たちを囲んだ。彼らのごまかしのない話はいたましいものであった。
ある者は、炭鉱労働こそが何世代にも渡り家族が唯一従事できる仕事であった。
またある者は、家族を養うために十分な職が炭鉱労働以外他に無いと語った。
また他の者は、炭鉱業こそがこの地域でありつける唯一の仕事であると話した。
労働者たちは炭鉱から深刻な健康被害を受けることはどことなく認識していたようだ。
肺がん、心臓血管へのダメージ、炭鉱そのものの崩落による傷害や死亡事故、早期死亡。
しかし、平均月収が1,000ドルに達することもあり、多くの者はこうした点を考慮しないか、無視していた。
彼らにとっては、生計を立てることが最優先であった。
データのみさえ見れば、なぜこれ以上の石炭火力発電所を建設するべきでないか、また石炭を燃やすことをやめるべき理由は明らかである。CO2と温室効果ガスは増加し、その影響は人類に警告を出す水準に達しており、その深刻な影響はもはや見て見ぬふりはできない。
2015年8月タイム紙は、オバマ大統領の『手遅れ』というのは存在する」という発言を取り上げた。声に出すには恐ろしい言葉だ。
現実には、炭鉱が閉鎖された時に労働者はどうなるのか、という問題に対しての解決策は未だにない。健康の改善、よりよい生活水準、そして環境の保全といった長期的なメリットが得られることは分かりきったことである。しかし、このような側面は職を失うという目先の脅威により見えなくなってしまう。
ベトナムでは再生可能エネルギー産業はまだ始まってすらいない。それに加え、炭鉱産業の労働者たちに新たな能力を身につけてもらい、安定した別の職に就いてもらうまでの準備や努力には時間がかかる。
専門家は、石炭にまつわるあらゆる問題点について議論するが、いかなる変化がおころうと、そのしわ寄せは労働者に行き、彼らが犠牲を払うこととなるのは明白だ。労働者が、このような犠牲を払うことに気が進まないことに対し、誰が彼らを非難できるだろうか。
ベトナムという国が労働者の不安を取り払う解決策を見つけられていない以上、私には彼らを非難することはできない。
バスの運転手がエンジンをかけた。もう日が暮れるころ、バンダン炭鉱でのツアーが終わった。政府職員は喜びに満ちたお別れの挨拶をし、この”新しい観光資源”を広めて欲しいと念を押した。
憂鬱になりながら、私は静かに笑ってみせた。
「人が人を破壊する。」
この言葉はいつも、私の胸をぐさりと突く。
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ホモ・サピエンスと呼ばれる種によって破壊された荘厳な景色を目にしたとき、肌が怒りでうずくのをあなたは体感したことがあるだろうか?
私はあの感覚が大嫌いだ。
あなたもそう感じることを、
私は願う。
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350.org は、気候変動問題を解決するため、化石燃料資源をほぼそのまま地中に留めて、100%再生可能エネルギーの社会への移行を目指す国際環境NPOです。私たち350.orgは、主に市民ベースのボトムアップ活動を通して化石燃料業界の影響力を衰えさせ、今人類が直面している気候変動問題を市民の力で解決させようと取り組んでいます。
その中、11月13日から11月14日の間、ストップ石炭投融資・グローバルアクションデーに因んで日本のリーダーに向けて#StopFundingFossils「化石燃料への投融資を止めよう」 と呼びかけるアクションが世界中で行われます。
350.org JAPANは11月14日、石炭産業への公的支援を廃止するように日本政府へ訴えるため、巨大な「カーボン・バブル」オブジェを使用したフォトアクションを東京都内で決行します! 参加者募集中です!350.org/ja/stopfundingfossils
さらに11月末より開始される国連気候変動パリ会議の直前、11月28日に東京、そして29日に京都で開催される#アースパレード2015 に参加します。350.org は世界各地で行われる市民のクライメートマーチ「#GlobalClimateMarch」 で「化石燃料はそのまま地中に、2050年までに100%再生エネルギーへと公正な移行を達成できるように融資をしよう」というメッセージを各国のリーダーへと呼びかけていきます。あなたも、持続可能な未来実現のために、一緒に歩きませんか? 350.org/ja/global-climate-march