2018年12月5日

<Urgewald・BankTrack 調査報告書>
COP24:世界の石炭火力発電拡大のための 民間銀行・機関投資家による投資実態が明らかに

 

2018125日 カトヴィツェ:最新のIPCC報告書、並びに国連の排出ギャップ・レポートが、世界各国で今も増加し続けている石炭火力発電所のフェーズ・アウト(段階的削減)を加速させることが急務であると警告している間にも、世界で石炭火力発電所の建設が進んでいます。

本日、ポーランドのカトヴィツェで開催されている国連気候変動枠組条約第24回締約国会議(COP24)での記者会見において、ドイツの環境NGOウルゲバルト(Urgewald国際環境NGOバンクトラック(BankTrackおよび26NGOは、新規石炭建設計画を支援している銀行と機関投資家を特定する新たな調査報告書を発表しました。ウルゲバルトのディレクターHeffa Schückingは、「パリ協定締結から3年の間に増加した石炭火力発電所の発電容量は92ギガワット(GW)を超えており、さらに計670GW以上の発電所が計画されています。」と述べています。

NGOらの調査データには、20161月から20189月までの期間に、金融業界が新規石炭火力発電事業に関わる上位120社に対して4780USドルを超える投融資を行ったことが示されています。バンクトラックのGreig Aitken「銀行と機関投資家が石炭火力発電事業者への資金提供を止めない限り、気候変動の危機に真に取り組むことは不可能でしょう。私たちはすでに気温上昇が1.5を超えてしまう限界に近づいており、残された時間はわずかしかありません。」と述べています。

ウルゲバルトとバンクトラックによる本調査では、新規石炭火力発電所の建設計画の設備の68%以上を占める、石炭火力発電事業者の上位120社への貸付・引受・について分析しました。

120社の詳細は、Coal Exit Listwww.coalexit.org/database )でご確認いただけます。

石炭火力発電事業者への上位の融資機関や運用機関の名称、国別の投融資割合は、付属表に示しています。

 


 

要点

 

世界の石炭火力発電所計画への融資機関

20161月以降、235の民間銀行は石炭火力発電事業者の上位120企業に対し、1010USドルを超える直接貸付を行ってきました。世界で最も多額の貸付を行っていたのは、みずほフィナンシャルグループ(みずほFG)で128USドル2位が同じく日本の民間銀行である三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)で99USドルでした。

地域別に見ると、2016年から2018年に上位の石炭火力発電関連企業への貸付の30%は日本の民間銀行によるものでした。世界の石炭火力発電所の建設計画における日本の民間銀行の存在が、他国の銀行と比べても突出していることが明らかに見て取れます。日本の環境NGOの気候ネットワークの平田仁子は「日本には、世界の先進国のどの国よりも多くの石炭火力発電所の建設計画があり、その上、多くの日本企業が海外の石炭火力発電所の建設に深く関わっています。また、日本の民間銀行は、世界中の石炭火力発電所の拡大を牽引する主要な役割を担っているのです。」と述べています。

また、Heffa Schückingは、「驚くべきことに、欧州の銀行の多くが石炭を制限する方針を掲げているにもかかわらず、上位の石炭火力発電事業者への貸付額の25を担っています。」と言います。

石炭火力発電事業者へ融資を行う上位10社には、米国のシティグループ34USドル)、欧州のHSBC23USドル)やスタンダードチャータード22USドル)、ING19USドル)などが含まれています。それぞれの銀行の順位は付属表に記してあるので、ご参照ください。

これにつき、バンクトラックのGreig Aitkenは「HSBCは今年の4月に新たな石炭方針を表明しているが、ベトナムやインドネシア、バングラディッシュの新規石炭火力発電所の建設計画への融資を行う余地を残しています。これら3カ国で計画されている石炭火力による発電量だけでも103GWを超えており、これは世界の石炭火力発電所建設計画の6分の1に該当します。」と指摘しています。

石炭火力発電所建設計画への貸付の多くは、コーポレート・ローンの形を取っているため、プロジェクトファイナスにのみ影響するような銀行の石炭方針の影響を受けません。例えば、2018年に出されたスタンダードチャータードの新しい石炭方針は、「いずれの新規石炭火力発電所計画には直接投融資しない」としています。この英国に本社を置く銀行は、2017年、2018年のいずれの年も石炭火力発電所計画のプロジェクトファイナンス契約に直接関わってはいませんが、中国、インドネシア、日本、フィリピンにおける上位の石炭火力発電事業者の法人貸付の額は、2017年の37300USドルから、2018年第1~3四半期までの11.8USドルまで急増しています。

オランダのINGも、2017年にすべての石炭火力発電企業への融資を2025年までに撤退するとの方針を表明していますが、2018年には石炭火力発電事業者に対し、貸付と引受業務を通して約5USドルもの支援を行っています。

「これらの事例は、銀行の石炭方針が抜け穴だらけであることを示すものです。世界の大手銀行が石炭火力関連事業者への法人貸付や引受業務を早急にやめない限り、パリ協定で掲げた削減目標に到達することはできません。」とSchückingは懸念を示しています。

 

世界的な石炭火力発電所建設計画への上位の引受事業者

石炭火力発電事業者に対する中国の銀行の直接融資額は全体の12%にすぎませんが、株式や債券発行における引受額を含めて合計すると巨額なものとなります。

20161月以降、国際的な銀行238行は、石炭火力発電事業者に対し、引受を通じて3770USドルを超える額の支援を行っています。世界の石炭火力発電事業者の引受業務の上位に君臨するのは、中国工商銀行(CIBC)で245USドル、そして中国中信股份有限公司(CITIC)の190USドル中国銀行の182USドルが続きます。中国の銀行による融資をすべて合算すると、石炭火力発電事業者の引受額全体の約73に達し、石炭火力発電事業における中国の役割の大きさを裏付けています。中国国内の石炭火力発電所の新規建設計画が259GWを超えていることに加え、中国企業が国外で進めている新規発電所建設は約60GWにも及びます。中国の国営銀行は、国内外での過剰な新規石炭火力発電所の資本調達において中心的な役割を担っているのです。

米国、欧州、日本の銀行で、石炭火力発電事業者への顕著な貸付を行っている銀行のうちいくつかは、重要な引受機関でもあります。例えば、シティグループ(60USドル)、HSBC52USドル)、みずほFG52USドル)などです。欧州の銀行が約7.5%、日本の銀行が5.2%、米国の銀行が4.7、それぞれ引受業務を通じて石炭火力発電事業に資金を投入しているのです。

 

世界の石炭火力発電所計画事業における上位の機関投資家

銀行が石炭火力発電事業者の株式や債券発行の引受を通して事業者の資本獲得を支援する一方、株式や債券の運用者である機関投資家も重要な役割を担っています。そこで、2018年の本調査では、石炭火力発電事業者上位120社の1390USドル相当の株式及び債券を所有している1206の機関投資家を特定しました。

石炭火力発電事業への世界最大の機関投資家は、米国の大手資産運用会社のブラックロック(BlackRockでした。ブラックロック社は、56の石炭発電事業者の株式および債券を110USドル所有しています。第2位は、日本の年金積立金管理運用独立行政法人(GPIFであり、41の石炭火力発電事業者に73USドルの投資を行っていました。以下は、マレーシアの政府系ファンドであるカザナ・ナショナル (Khazanah Nasional)67USドル)、米国の運用会社バンガード(62USドル)、韓国の国民年金運用NPSNational Pension Service)(45USドル)と続きます。

「我々の調査に名を連ねている世界的な投資家および銀行の多くが、気候変動に対する責任を有することは明らかです。しかし、各国政府がポーランドのカトヴィツェで地球の将来の気候について議論する間にも、これらの投資家および銀行のお金の流れは、我々の地球を文字通り燃やしているのです。」Heffa Schückingは述べています。

米国を拠点とする投資家が、石炭火力発電事業者の株式や債券を最も多く保有していることが分かりました。米国の機関投資家による投資を合計すると、石炭火力発電事業者への投資全体の35に及びます。欧州の機関投資家が占める割合は16%、日本は14ですが、中国とインドによる債券と株式における投資は各国6%と7%となっています。

 


 

今後に向けて

 

それでも、悪い報告ばかりではありません。行動を起こした機関投資家もいます。2017年と2018年、世界の三大保険会社-AXA、ゼネラリ(Generali)とアリアンツ(Allianz-が相次いでポートフォリオから石炭火力発電事業者を排除する方針を策定しました。アリアンツは、更に一歩進んで、すべての石炭関連への投資を2040年までに完全に止めるとの方針を発表しています。

Greig Aitkenは、「他の金融機関もこれらの方針に追従すべきでしょう。」と呼びかけています。「大手銀行や投資家が、壊滅的な気候変動の引き金となるような事業計画を進めている企業にいまだに加担していることは恥ずべきことです。」

 


 

付録