『パリ協定』採択から2年が経った2017年の暮れ。世界的に自然エネルギーへの転換が叫ばれているなか、日本は環境や未来の世代に配慮をしないエネルギー源の使用を未だに拡大し続けています。

CO2の排出のみならず、地元住民の健康被害も懸念される石炭火力発電所を40基以上新たに増設する計画が進み、2011年の災害を忘れたように5基目の原子力発電所の再稼動も始まってしまいました。

このようにエネルギーの観点で大きな問題を抱える日本の現状、そしてその解決策としてのダイベストメント運動について、自身第三作目となる「日本と再生 光と風のギガワット作戦」を2017年初旬に公開した河合裕行監督に話を伺いました。

自然エネルギー100%へと向かう国際的な流れと逆行する日本の社会の動きの背景にはお金の流れがある、と河合監督は次のように語ります。

「お金というのは経済の血なんです。それで、血液がどこに流れていくかっていうことによって、その国の経済がどういう風に動くかが決まるんですね。」

環境リスクを考慮せずに、短期的には安価な電力を供給できる燃料を選ぶ電力事業主も、使用停止状態の原子力発電所を座礁資産*にはしたくないと原発再稼動へのプレッシャーをかける金融機関も、根本的にはお金を儲けたいという理由で動いていると監督は話します。

*市場環境や社会環境が激変することにより、価値が大きく落ちる資産。


↑インタビューに答える河合監督

河合監督もかつては、企業弁護士としてマネーゲームの中に身を置いていたうちの一人。大きな案件を次々と勝利し、スポットライトの中で金と名声を手に入れたといいます。

しかしバブルが弾けた後、自分の人生に虚しさを感じた河合監督は、脱原発運動の先頭に立つことを決断。その理由を次のように述べました。

「もっと本質的なことに直接関わりたかったんだ。まずは、美しく安全な地球を後世に残すこと。これが人間にとって一番大事なこと。」

脱原発訴訟をいくつも担当しながら、原発推進派がバラまく様々なデマを否定するためのツールとして映画製作にも取り組みます。3・11後は弁護士170人を集めて、賠償金総額5.5兆円の東京電力株主代表訴訟を起こしました。

そして、河合監督は今月の初めに「間接的ではあるが原発の息の根を止める運動である」とダイベストメント運動への賛同を表明し、城南信用金庫へとその資産を移行しました。
↑「日本と再生」上映会にて登壇する河合監督(室内展示写真 by 樋口健二

ダイベストメントとは、インベストメント ( 投資 ) の反対の意味で、資金を引き揚げること。地球温暖化を悪化させる石炭・石油・ガスを含む、化石燃料に依存する企業や、リスクの高い原発関連企業へのお金の流れを止めて、 持続可能な社会の実現に取り組む企業へと資金を移動させようというムーブメントです。

米国の大学から始まったこのダイベストメント運動は、国際的な広がりを見せており、世界中で800以上の組織(企業、NGO団体、大学、基金、自治体など)が石炭などの化石燃料からのダイベストメントを表明をしました。その総額は約640兆円にも上ります。

日本では、350 Japan(以下350)によって石炭などの化石燃料、原発関連事業に投融資を行う銀行をターゲットとする運動が展開されており、総勢130人と7団体がそれぞれの口座を地球にやさしい銀行へと変更し、ダイベストメントの達成を宣言しました。(2018年1月時点)その総額は約4億円に達しています。


河合監督「ダイベストメントは銀行に対する不買運動」

ダイベストメント運動の狙いは、地球環境にやさしい事業への投融資を銀行に求めること。この活動を河合監督は「不買運動」のようだと、4文字でまとめてくださいました。地球環境にやさしくない投融資を続ける銀行には預金をしないことで、不買運動のように市民のメッセージを銀行に伝えます。

さらに活動を一歩進めるために、350は「地球にやさしくない銀行ランキング」と題して、ダイベストメントを宣言した市民が、どの銀行の口座から預金を引き揚げたのかランキング形式で発表しました。

また、それとは反対に「地球にやさしい銀行ランキング」も作成し、多くの人がダイベスト先として選んだ地球にやさしい銀行を発表しました。多くの人は、その銀行の活動を支援したいとの思いからダイベストメントをしています。

人々が地球にやさしくない銀行に預金をしないことで、化石燃料や原子力発電所に投融資する元の財源を断ってしまうのです。

↑複数環境団体のスタッフによる銀行前アクションの様子

しかしながら、大半の人々は銀行の情報開示が不十分な理由もありますが、銀行がどういった事業に投融資をするかは考えずに、利息や利便性などで銀行を選んでいるのが現状なのではないでしょうか。

河合監督は、そういった消費者の無関心さが間接的に原発推進を助けているとして、次のように呼びかけます。

「脱原発や自然エネルギーに力を入れたいと思っている人は、原発関連事業や化石燃料への投融資を続ける銀行にお金を預けるのではなくて、自然エネルギーに力を入れていて、また原発推進に関与していないような銀行にお金を預けるべきだと思いますね。」

↑ダイベストメントを宣言する河合監督

お金は経済の血液、それがどこに流れるかで社会が形づくられます。そして、流れる場所を決めるのは一人ひとりの選択です。

あなたの預金が望まない場所に流れないようにするためにも、未来のための銀行選びをしてみませんか?


地球にやさしい銀行を知りたい方、私たちの活動をさらに詳しく知りたい方はこちら

https://letsdivest.jp/

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河合監督のインタビュー動画

ショート版はこちら

https://youtu.be/5P0DpCBOlBY

全編はこちら

https://www.youtube.com/watch?v=Uy4VsZ6ndnc&feature=youtu.be

監督プロフィール

河合弘之(かわいひろゆき)

http://lawyer-kawai.com/profile

1944年旧満州生まれ。東京大学法学部卒業。さくら共同法律事務所所長。

浜岡原発差止訴訟弁護団長、大間原発差止訴訟弁護団共同代表、脱原発弁護団全国連絡会共同代表、3・11甲状腺がん子ども基金理事、ヒロシマ被爆者団体員、認定NPO法人高木仁三郎市民科学基金代表理事、中国残留孤児の国籍取得を支援する会会長、フィリピン日系人リーガルサポートセンター代表理事、環境エネルギー政策研究所監事。代表作に大下英治『逆襲弁護士 河合弘之』さくら舎 (2013)、『原発訴訟が社会を変える』集英社新書 (2015)、映画「日本と原発 私たちは原発で幸せですか?(2014)」「日本と原発 4年後(2015)」「日本と再生(2017)」などがある。